櫻イミト

神曲の櫻イミトのレビュー・感想・評価

神曲(1991年製作の映画)
3.5
ポルトガル映画の重鎮マノエル・ド・オリヴェイラ監督が83歳時に撮った代表作のひとつ。現代の精神病棟を舞台にキリスト教的世界観を再考する群像対話劇。

「精神を病んだ人々の家」と表札を掲げた大きな屋敷。収監されている人々はみな自分のことを、「新約聖書」や「罪と罰」「カラマーゾフの兄弟」の登場人物だと思い込んでいる。アダムとイヴ、キリスト、ラスコーリノコフ、ソニア(マリア・デ・メディロス)・・・一人だけ無神論の哲学者と名乗る男もいる。彼らはそれぞれの書物の言葉で語り合う。。。

ペドロ・コスタ監督が面白かったのでポルトガル映画の先達の作品を鑑賞。聖書とドストエフスキーの登場人物になりきって語り合う人々を描き、キリスト教的世界観を相対化して見せている。「聖書」への興味と最低限の知識がないと楽しめないと思う。強い主張や鋭い批評性は感じられなかったが、美しい映像の中でキリスト教世界の様々な言葉が飛び交い意外に飽きずに観ることが出来た。

オリヴェイラ監督作を観るのは初めて。解説によると本作はフィルモグラフィーの中でも静的な作品との事。映像と編集テンポは好みだったので、もう一作程観てみたいと思う。
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