安堵霊タラコフスキー

神曲の安堵霊タラコフスキーのレビュー・感想・評価

神曲(1991年製作の映画)
4.8
オリヴェイラ作品の中でもかなり気に入った映画で、レトロスペクティブでこの映画を選んで見た自分を褒めたくなるくらい

罪と罰やカラマーゾフの兄弟を再現する者、自分らをアダムとイヴと思い込んでいる精神異常者ニーチェ的ニヒリスト、等々の精神病患者と思しき人々らが繰り広げる知的遊戯といった様相の作品だが、彼らの行う小説の真似事や神にまつわる論争は精神異常者の戯言として一笑に付すことは可能だが、実際はそのどれもが見ているとどこか神聖な行為のようにも見え、そこに逆説的な面白さが感じられる

加えてそんな彼らの行動はたかが設定をさも真実であるかのように振る舞うという点で演劇や映画での俳優の演技に通じるものがあり、演技という行為の滑稽さと神聖さをメタ的に再認識するきっかけになったという意味でもこの作品に触れられて実に良かった

ところでこの映画のタイトルはダンテの代表作と同じ原題だから邦題も安易に同じものにされたが、前述の通り作品の主題を考えるとダンテと切り離し「神聖な喜劇」とでも直訳した方が適当だったように思われる