櫻イミト

氷柱の美女の櫻イミトのレビュー・感想・評価

氷柱の美女(1950年製作の映画)
3.5
現存最古の”探偵・明智小五郎”の映画。原作は江戸川乱歩の「吸血鬼」(1931)。監督は「警察日記」(1955)、「駅前シリーズ」の久松静児。

莫大な遺産に恵まれた美貌の未亡人、静子を巡り二人の男が毒薬瓶を挟んで決闘を始める。敗北した岡田は自殺死体として発見されるが、やがて静子の元に死んだはずの岡田から脅迫状が届く。事件解決に乗り出す探偵・明智小五郎(岡 譲二)。静子の西洋屋敷では”唇の無い男”による連続殺人事件が発生する。。。

江戸川乱歩が好きなのと、戦後GHQ体制下(~1952)の邦画は黒澤と小津の映画ぐらいしか観ていなかったので大変興味深く鑑賞した。

意外性のある導入部から始まり、仏像コレクションの並ぶ西洋屋敷、お化け屋敷での追走劇と死体、怪しげな小人、唇の無い男、そして“氷柱の美女”と、猟奇的なムードが満点の娯楽作だった。明智小五郎と犯人の必然性の感じられない変装やこけおどしの数々、布石なしの唐突な解き明かしなどツッコミ所は多いものの、江戸川乱歩ワールドの見世物的な魅力は存分に感じられてかなり楽しめた。

知っている俳優が一人もいないのも未知の過去を覗いているようでプラスに感じられた。女性たちの髪形やファッションも戦後の古雑誌を眺めているようで楽しい。黒澤や小津など巨匠の映画とは一味違う、闇市の時代の大衆エンターテイメントを感じることが出来る貴重な一本。

※原作「吸血鬼」は小林少年が初登場する作品。

※天地茂の「江戸川乱歩の美女シリーズ」の第一作目を飾ったのも『氷柱の美女』。
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