genarowlands

君を想って海をゆくのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

君を想って海をゆく(2009年製作の映画)
4.0
クルド人少年がイギリスに家族と移住した恋人を追いかけ、幾つも国境を越えフランスまで3ヶ月かけて到達、あとはドーバー海峡を越えるだけ…距離にして34km。

(非常に考えさせられたので、以下、長文になってしまいました💦)


クルド人がここまで排斥されていることを知りませんでした。自家用車に乗せた、自宅に泊めた、食事を食べさせてあげた、それだけでフランスでは犯罪になる。

プールの指導員はがむしゃらにプールで泳ぐ少年の魂胆を見抜き、ほんの少しの親切心で関わったことで、騙されたと思ったり、怒ったり、それでも恋人を思う純粋な気持ちに心動かされていきます。

難民認定されていない不法入国者との関係性がよくわかります。日本でも不法滞在者を故意に匿うことは罪に問われるから同じですが、フランスの小さなカレーの街には、ジャングルと呼ばれる移民の大規模キャンプがあり、ドーバー海峡の入口のため、大量の移民が集まります。

難民の実態や思いを伝える一方、中途半端な親切心は仇になる。そんなことを伝えているように感じました。純粋な少年を守りたかったら、養子にすればいいのに。それを瞬間考えた水泳指導員。そこまでの責任は取れない、一時の感情に流されれば、少年に危害が及ぶのもわかっていたはず。

別居している妻は難民にボランティアで炊き出しをしている。それ以上のことができないから、嫌がらせにも仕方ないと受け入れている。でも、法に触れない範囲で出来る限りのことをしている。

日本のように難民の受け入れをほぼしていない国から、この作品の人物たちやフランス、イギリスの制度を安易に非難できないのですが、国を持たないクルド人難民の邦画を2本観て、移民についての海外の作品を観た限りの中で、人道的支援を地道にしていく以外の方法が私にはわかりませんでした。非常に難しくもっと学ばねばわからないです。

移民大国フランス、ドイツもそうですが、ヨーロッパの国々に安全な寝床と温かい食事、仕事を求めて世界中の政治経済不安や紛争中の国から脱出してきた人々。

少年の一途さと、別居中の妻への思慕で揺れ動く水泳指導員役にヴァンサン・ランドン。受け入れる優しさと優柔不断さに満ちていました。
別居中の妻は難民が差別されることにその場で声をあげて庇う。妻の行動が私には正しく思います。

タイトルのWelcomeが皮肉となるシーンを見逃したのが残念。隣室の人のクレームの時かな。

フィリップ・リオレ監督は安易な優しさを示さず、厳しい現実を見据えながらも、人間愛を感じます。でも、もう一歩踏み込んでほしかったです。移民受け入れの問題点へ。また、少年が捨ててきた祖国や家族、その辺りで少年を肉付けしてほしかった。恋だけが動機なのは美しいのですが。
genarowlands

genarowlands