Jeffrey

ナインス・ハートのJeffreyのレビュー・感想・評価

ナインス・ハート(1978年製作の映画)
3.5
「ナインス・ハート」

https://youtu.be/b_FtnDctz64

こちらYouTubeで解説しております。

冒頭、喧騒と醜とアートの世界。滑稽な無銭飲食、宙に浮く剣、神の悪戯か、逃走劇。古城への潜入、どさ回りの人形劇団、8人の行方不明の求婚者、反体制分子、妖術使いの伯爵、魔法。今、城から脱出が始まる…本作は1977年にチェコスロバキアで公開された89分のゴシック・ファンタジー映画で、日本未公開と言うことでこの度廃盤のDVDボックスを購入して初鑑賞したのだが素晴らしい。というかやはりユライ・ヘルツの作品は好きだ。彼の作品ではやはり「火葬人」は傑作だろう。その他にも「 鳥獣の館/美女と野獣より」も必見かと。チェコ映画と言うのは日本ではなかなか見ることができなくて、多分俺も人生で100本も見ていないと思う。ちなみにチェコ映画のALL TIME BESTで言うなら間違いなく「夜のダイヤモンド」だろう。

本作は冒頭に、心臓が動くハートのアニメーションから始まる。そしてドラムを叩くショット、野外で行われているサーカスのようなパフォーマーによる演出、人形劇、ナイフ投げ、綱渡り等がごった返す人混みの中で映される。さて、大公家の王女の求婚者が既に8にも行方不明になっていると言うことが町の噂でもちきりになっている。町の広場では、どさ回りの人形劇団がその物語を上映したり、放浪中の青年マルティは彼らと意気投合して人形遣いの娘トンチカと恋に落ちたりもしていた。そーゆー、ひょんな事から劇団は反体制分子として兵士から目をつけられてしまう。ゴタゴタの末、マルティンは身代わりとなって事件解決の役目を志願し始める。それは命をかけた危険な仕事であり、また姫の求婚者になると言う事でもあった。

続いて、カメラは屋敷に招かれたマルティンたちを捉える。王女を慕う道化師に行く事の詳細を聞く。王女は、占い師だったアルドブランディーニ伯爵の求愛を断ったため、彼に魔法をかけられてしまっていたことが判明する。以来、夜な夜な城を抜け出してどこかへと消え去ると言う話を聞く。カットは変わりその夜へ。マルティンと道化が王女の後をつける。たどり着いた先は怪しげな古城であった。そこには伯爵が待ち構えており、囚われた道化師は伯爵によってハート抜きとられてしまう。

彼は王女を利用して9つのハートを集め、不老不死の秘薬を作ろうとしている。さぁ、果たしてマルティンは彼女にかけられた魔法解くことができるのだろうか。そして無事トンチかの元へ戻れるのだろうか…。ポイント紹介→魔法のマントを手に入れた貧しい若者が、囚われの王女を救出するため、人間の血で不老不死を目論む占星魔術の城はと潜入する。魔法の虜になった美しい姫。古城に巣くう妖術使いの伯爵。放浪の青年と人形遣いの娘が紡ぐ恋。そして、奇妙な機会に入れられた9つの心臓。果たして彼らの運命は…と簡単に説明するとこんな感じだ。


いや、やはり東欧らしいダークムードを漂わせている作品だなと感じる。メルヘンチックなところもあるが、コミカルテイストで美しく表現された幻想怪奇的なものが前面に押し出されている。様々な要素である透明マント、不老の薬、時の部屋などがあるのも見ていて面白いし、蝋燭の火で黄金色に彩られる画期的なビジュアルインパクトは一度見たら脳裏に焼きつく。

この映画全体的に落ち着いているが、ファンタジック系の題材が好きな人だったら楽しめるのかもしれない。少しばかりスラップスティックな雰囲気もある内容だが、ユーモラスには大いに楽しめた。ヘルツによる演出スタイルが前編後編で輝き方が全然違うのも面白い。特にやっぱりインパクトがあったのは舞踏会のシーンで、照明効果や回想シーンの特殊撮影などが非常に幻想的な映像美を作り出している。

それとキャンドルの立ち並ぶ時の部屋の美術などはすごいインパクトがある。ヨーロッパのゴシック趣味を十分に満足させるような演出は、ゴスロリ関係の映画好きでは無い人が見ても多分感銘を受けると思う。どうやら美術協力としてヤン・シュヴァンクマイエルも参加しているようだ。今思えばヘルツ自体もパフォーミングアーツ学院で人形劇制作部に在籍してたと言う事柄を見ると、人形劇団のシークエンスとかはやはりそこら辺に当時の思いが入っているのかもしれない。


あれはクルミなのだろうか?とりあえず何かの実の中から小さく丸められたノコギリが出てきて、それで閉じ込められている男(無銭飲食した学生)が鉄の柵を壊そうとする場面で、カットが変わってガールフレンドに再会する場面にすぐに移り変わるのだが、あんなおもちゃみたいなノコギリであんな鋼鉄な柵を壊せるわけもないのに、あっという間に解決する所とか強引で受ける。

そしてその学生(青年)が無銭飲食して1度は囚われたが、再度逃げ出してしまい、それを見られて町中を追いかけ回されるー連の流れは非常に滑稽で面白い。逃亡した囚人を必死に探す権力者の哀れな姿が楽しい。この映画古城に潜入するまでがドタバタコメディーっぽい感じで笑えて、古城に入ってからは独創的なファッションや、美術、家具などの位置関係などが楽しめる。更に物語が佳境に入るため夢中になる。

あの機械時計の巨大な振り子がチクタクチクタク聞こえる(心臓の鼓動音ににさせている)部屋に無数のろうそくが立っている描写の幻想的なシークエンスは素晴らしい。ラストのマルティンとトンチカがメルヘンチックに再会して抱き合う場面も凄く良い。そう、この映画はダークファンタジーでありながらハッピーエンドに終わるのだ。タイトルから見ると凄くおどろおどろしく感じるが、なんだかんだロマンティックで余韻が残る幕閉じをしている。

こういったヨーロッパの民話に強く影響受けたような作品て他にもあったような気がするんだよなぁ、監督もタイトルも全然思い出せない。何だっけかな…。最後に、この作品はファンタジー映画だから子供向けと思ってお子さんに見せたら大変なことが起きるのでぜひ止めてほしい。あくまでもこれは大人向きのファンタジー映画なのだ。気になった方はぜひ見て欲しいと言いたいが残念ながらレンタルなどもされておらず配信もない。

ルパンを観たくなる映画だ。
Jeffrey

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