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ランサムのSexyBeastBabaのレビュー・感想・評価

ランサム(1977年製作の映画)
2.5
アメリカにおいてすら知られざる職人監督リチャード・コンプトンの予期せぬ美徳といえば、B級的アメリカン・ニューシネマの枠内において、様々なジャンルを越境する謎めいた力強さだ。それは彼が今作の3年前に制作した異形の作品"Macon County Line"が証明している。

映画史上最も美しい男のプリケツから幕を開ける爽やかなオープニング、南部の熱気が粘つくアメリカン・ゴシックの濃密性、汗臭い闇が煌めく夜の陰惨な這いずり、誤解によって荒れ狂うスラッシャー映画的な虐殺、そして意表を突く荒涼たるラスト(それが、コンプトンの「ソルジャー・ボーイ」の脚本を書いたガードン・トゥルーブラッドによる監督作"The Candy Snatchers"の反復であることは注目されるべきだ)……

が、この「ランサム」は些か期待外れと言わざるを得ない。アメリカを支配する富裕層に逆襲するため、ネイティヴ・アメリカンの男が巨大ボウガンで虐殺を図るという物語だが、アクションの規模が過度に肥大化してしまい、アメリカン・ニューシネマの荒涼たる雰囲気は雲散霧消してしまった。主演のオリヴァー・リードが纏う、痔の薬にまみれたかのようにヌメった口髭はコンプトンの作家性を完全に壊している。残念なことに「ランサム」は大衆迎合的な娯楽映画に堕したことは否めない。

「ロッキー」や「スターウォーズ/新たなる希望」はアメリカン・ニューシネマにとどめを刺したと言われるが、アメリカの反逆者たちの影で、汗臭い静寂の中で、知られざる異端であった男の心の息をも止めてしまったのか?
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