一人旅

ニックス・ムービー/水上の稲妻の一人旅のレビュー・感想・評価

5.0
ヴィム・ヴェンダース、ニコラス・レイ監督作。

肺癌に侵され死期の近づくニコラス・レイにヴェンダースら撮影隊が密着する様子を映し出したセミドキュメンタリー。
物語が面白いとかつまらないとか、そういった次元で語れる作品ではない。
ヴェンダースが敬愛するニコラス・レイ監督の死の直前をつぶさに見つめている。本作は決して純粋なドキュメンタリーではない。一応脚本“らしきもの”があるからだ。与えられたセリフをレイとヴェンダースは話すが、NGシーンもそのまま使用される。セリフを間違えたヴェンダースをレイが指摘したかと思えば、何事もなかったかのようにそのままテイク2が始まる。映画用カメラの静謐な映像と手持ちのビデオカメラの粗い映像の使い分けが、この映画のもつ現実性を一層浮き彫りにする。
ありのままのレイを捉えた本作では、撮影中にレイが病状を悪化させ急遽入院する姿も映し出している。患者服を着てベッドで横たわるレイは、風船から空気が漏れたような奇怪な音を出しながら必死に呼吸する。呼吸する度、死に一歩一歩近づいているような絶望感を覚える。衰弱したレイから絞り出される言葉は弱々しく、実際に死を間近にした人間が見せる最期の演技(もはや演技なのかすらも分からない)に言葉を失う。肺癌だというのに、あらゆるシーンで煙草を吸い続ける姿も印象的だ。縮めるための寿命すら残されていないことをレイ自身察しているように思える。
そして、レイは本作完成前に67歳で実際に死亡している。レイの実際の死によって、本作の物語が完結していく。言葉に言い表せないほどに奇妙な感覚。何が真実で、何がフィクションだったのか、その境界線すらまるで分からない。アッバス・キアロスタミ監督の『クローズ・アップ』のように、フィクションと現実が奇妙に入り混じった作品。だが、製作年は本作の方がずっと前。映画を越えた映画。必見だ。
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