ドント

ルチオ・フルチの 恐怖!黒猫のドントのレビュー・感想・評価

3.6
 1980年。ニャーッ!! ポーの短編「黒猫」をルチオ・フルチが大胆にアレンジしたネコ・ホラー。冥界や死者の声や超能力を信じる老人にまとわりつく黒猫! それによって引き起こされる事故! 悶死! 炎! 轢! 人が! 無残に死ぬ!
 ネコは巨大化したり悪魔化したりはしない。フルチともなればそんなことをせずともよいことを知っている。道を這うようなカメラの動きは黒猫の視点だがまるでジェイソンの視線の如き「殺人者」ショット。暗がりに不意に現れる猫の姿と瞳を映し、それに怯える人間の目、額ににじむ汗をがっちりと捉えさえすれば、そのままの姿で黒猫は悪魔か死神めいて見えてくる。ネコチャンの可愛さそのままに……
 これを馬鹿馬鹿しいと言うのはいかにもイージーだが映画というのは「嘘を信じる」「嘘なのに真に迫ってくる」ものではなかったか? 見よ黒猫が閂を開けている! 消えて現れる! 梁に捕まる男の手を引っ掻く! おまけに殺されたのに生き返り、ポルターガイスト現象まで起こす! こういうことが厚みのあるショットや、若干乱暴な演出で積み重ねられていく。これはおそろしい猫なのだ……
 これより前の作でも執拗に撮られる「目」、人の目と猫の目が見つめ合い見返し合い、そこに呪術のような意味が発生していく。他の作に比べるとグロや派手さが少なく(人は無残に死ぬ)、相対的に小品の枠に収まる作ではある。そのぶん乾いていて、同時に熱を帯びており、たとえば妖気をはらんだプログラム・ピクチャーの怪談映画のような膨らみをもっている。有名作でなくともこの出来、フルチ作を観ねばな、も思わせる作だった。
ドント

ドント