猫脳髄

ルチオ・フルチの 恐怖!黒猫の猫脳髄のレビュー・感想・評価

3.3
ルチオ・フルチによるエドガー・アラン・ポー「黒猫」を下敷きにした怪奇風味のジャッロ作品。フルチは本作を撮った後「ビヨンド」に取り掛かったらしく、大作の合間に製作した「愛すべき小品」という趣である。

舞台はイギリス。われらが黒猫ちゃんが、ニンゲンを次つぎと死に追いやるべく暗躍する。旅行中の写真家ミムジー・ファーマーが警察に協力して捜査にあたるなか、学者にして霊能者と言うパトリック・マギーの存在に行きあたるが…という筋書き。

フルチはホラー製作者のなかでも猫の扱いがうまい。「ルチオ・フルチの世界ネコ歩き」のごとく彼らの動きをトレースし、襲撃シーンも猫が飛びかかるさまをリアリティ豊かに演出している。同時代のダリオ・アルジェントがフレーム外から猫を適当に投げ込んでいるのに比べれば雲泥の差である。フルチはきっと猫好きだし、おそらく自らも飼っていたのではないか。イタリアン・ホラーには猫が頻出するが、彼らの名演技に注目である。

本作のもうひとつの魅力はマギーのキャラクター設定と重厚な演技である。学者にして霊能者、しかも夜なよな墓場で死者の声を録音する実験を繰り返し、巨大なテープレコーダーで聴き入るという怪人ぶりである。筋にはほとんど関係ないが、此岸と彼岸の境界を描写することに長けたフルチらしいし、スタティックながら、明らかに狂気の淵を歩くマギーの演技も素晴らしい。心霊実験モノとして大変好ましい。

黒にゃんたちがヨイショヨイショと頑張る一方で、ファーマーはあまりパッとしない。やはり彼女も「向こう側」の女優であって、善人役は似合わないのかもしれない。
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