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マン・オブ・ノー・インポータンスのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

 カウリスマキ映画のような、厳しい現実とささやかな優しさを持つ人らという題材で、ハートフルなのかと思いきや怒涛の苦難のたたみかけに、「ジョーカー」になってしまうんじゃないかという危惧さえ生まれた。

 しがないバスの添乗員を務める男は、オスカー・ワイルドの詩を朗読し、日々を謳歌している。というとやはりカウリスマキ、いやむしろジャームッシュの「パターソン」と同じことに気がつく。しかし、彼が何故オスカー・ワイルドにこだわるのかというと、彼自身が同性愛者だからである。「口に出せない愛があるのを知ってるかい?」という彼の投げかけの悲痛さ。

 芸術が彼の救いだったが、ワイルドの「サロメ」は1960年代のアイルランドでは過激だったようで(同国生まれの作家だというのに!?)たちまち上演できなくなってしまう。ここからの挫折に次ぐ挫折、理不尽に次ぐ理不尽は胸が痛い。これがオスカー・ワイルドの人生と少しリンクされているのもニクイ演出となっている。散々だった、それでも彼の友人たちは、それもまた彼であると受け入れるのだった。この優しさがあってほんとよかった。途中まで、路地裏で殴られ突っ伏してカメラが彼を置き去りに引いていくところなんて、「ジョーカー」誕生秘話そのまますぎだった(絶望のショットは期せずして似てしまうものなのか)。闇落ちは免れ、彼が好意を抱いた青年も、愛情ではなく友情でだが、舞い戻ってくれる。「サロメ」は上演されず終いとなり、彼は青年にワイルドの「レディング牢獄の歌」を朗読させる。ワイルドが牢獄されたのちの作品だが、その内容はまさに主人公の生ける世界自体そのもの監獄であると言わんかのようだった。

これ、グッとくるのが、冒頭で青年から主人公にワイルドの詩を読むよう言われて読むシーンがあるのだが、ラストはその問いかけと応答が逆転して反復されるのだ。彼らの友情は変わらずそこにある。二人であることは、救いだ。

「Let's Do It, Let's Fall in Love」という歌が良すぎる。
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