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左利きの女のzhenli13のレビュー・感想・評価

左利きの女(1977年製作の映画)
4.2
これは好きだな。ロビー・ミュラーの撮影が何をおいても好く、それだけでずっと観ていられる。ほとんど固定で長くはないショットを訥々とつないでいく。写真集を眺めるような次の頁をめくるような愉しさがある。ぎこちないつなぎもあるが全体にとても味わいがあって省略の効いた編集。ブルーノ・ガンツが妻役のエディット・クレヴァーと別れて突然自分の顔を殴るところをインサートするのとか、暗闇に縁取られる一階と二階の室内の正面ショットで子どもが飛び降りるシルエットを捉えてるのとか。

ストーリーが無くてもいいくらいだなと前半は思ってたが、会話のシーンが妙にリアルな印象を残す。
20歳にもならない女の子を恋人にしていたおっさんが、その子の肩を抱いててふと見かけた若い男に「彼女は歳の離れた男に肩を抱かれてることに吐き気を催してるのでは」と思ってしまい、別れることにしたとか、年老いた父が「夜寝るときに思い出す人がいない。昼間誰にも会わないから」とか。父と娘が高台の丘で並んでだんだん空が暗くなる瞬間も好い。

台詞の無いシーンも印象的。親子で食べるシーンが2回出てくる。暗闇に蝋燭を灯し、床にならべたパンや果物を食べる。ライチ、りんご、メロンなどを剥くまたは割る手のショットが連続する。森を抜けたところで焚き火をし、芋のようなものを食べる。エディット・クレヴァーと息子は同じ方を向き、彼女の顔になんとなく笑みがこみ上げてくるが息子はそれに気づいてないところ。
精神的に追い詰められたクレヴァーが毛皮の長いコートを着てひたすら町を歩くロングショットの連なりも好い。

小津監督を殊更に意識している。小津監督のポートレイトが部屋に貼られてるのは笑ったし、エディット・クレヴァーと女友達は腰掛けて、クレヴァーの息子と友達はちょっと争い合うようなアホっぽい遊びをしている。それぞれが正面固定でカットバックされる。小津監督作品におけるショットや子どもの扱いをオマージュしているようだが、子どもが仕込みのコントをやってるみたいに見える。
クレヴァーとその息子と友達が『東京の合唱』を映画館で観るシーンがある。映画内映画で本編がインサートされている。岡田時彦、八雲恵美子、高峰秀子らが手遊び歌で遊ぶシーン。大人の世界と子どもの世界が交わっているようで交わることのできないことを表すシーンは、クレヴァーの心情を代弁する。それを大人と子どもが観ている。子どもたちは大人の気持ちが判っただろうか?

音もとても好かった。ギターの爪弾きや無伴奏チェロが印象的だが、雨音とか。エンドクレジットで突然流れるフォルクローレも染みる。
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