南

魔女の南のレビュー・感想・評価

魔女(1922年製作の映画)
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2015年、福岡市博物館で開催された『魔女の秘密展』に赴いた。

昔々、魔女たちが使っていたとされる道具や、魔女狩りに使用された拷問具、魔女に関する文献など、ワクワクする展示が目白押しで、終始テンションが上がりっぱなしだった。

十分に見て回らないうちに閉館時間が来てしまい、泣く泣く博物館を後にしたことを覚えている。

このように魔女という存在が持つ得体の知れない魅力は現代でも多くの人を惹きつけ、映画にアニメに漫画に大人気の題材であり続けている。

何を置いても『ハリーポッター』、それからアニャ・テイラー=ジョイ主演の『ウィッチ』、アン・ハサウェイが凶悪なボス魔女を好演した『魔女がいっぱい』。

ここ日本でも『プリキュア』や『まどマギ』、魔法学校を舞台にしたコメディ『リトルウィッチアカデミア』など、洋邦を問わず、またシリアスとコメディを問わず、枚挙にいとまがない。

しかし魔女の得体の知れなさは、キリスト教が支配する中世の社会においては即「悪魔と密通する異端」と見なされ、残酷な迫害の対象とされた。

『HAXAN』(1922)はまさに、魔女が恐怖と嫌悪の対象として扱われていた時代を描いた作品だ。

主に中世の魔女たちに関する知識を図像を引用しながら語る文化史講義、彼女たちの活動に関する史実や伝承、キリスト教徒たちによる魔女狩りなどの再現VTRから成っている。

とにかく隅から隅まで圧巻の映像美!!!

丁寧に練り上げられたプロダクションデザインの数々!!!

構図、照明、小道具、特殊メイク、デザイン、スモークの使い方に至るまで、全ての要素にこだわりが爆発している。

「もっとこの画を眺めていたい…目に焼き付けたい…」

その一心で一時停止ボタンをここまで何度も押しながら観たのは『狩人の夜』(1954)以来だろうか。

映像的な白眉は第四章。

ブロッケン山の盆踊りこと ”ヴァルプルギスの夜” を始めとする魔女たちと悪魔の戯れ。その表現が素晴らしい。

横スクロールで空を疾駆する魔女たち、

飛び去る魔女たちの手前で踊る悪魔たちのシルエット、

乳飲み子を恭しく祭壇に捧げる悪魔の司祭、

満月を背に立つ巨大なバフォメットの前で贄をいたぶる下級悪魔、

悪魔の子を出産する人間の女性、

などなどなど。

悪夢的で邪悪なイメージの奔流にときめきが止まらない。

ジョエル=ピーター・ウィトキンの写真にも通じる、禍々しくおどろおどろしい美意識が横溢している。

魔女狩り拷問の手筈や器具を詳細に解説したパートも出色の出来だ。

明治大学の博物館を初めて訪れ沢山の拷問具を見物した際も歓喜したものだが、あの館内で『HAXAN』をループ上映したらピッタリなんじゃないか。

カール・テオドア・ドライヤー監督の『裁かるるジャンヌ』『吸血鬼』を始め、後世の作品にも大きな影響を与え続ける、まごうことなき傑作である。

繰り返し大画面で視聴したい。
南