牧史郎

平成ジレンマの牧史郎のレビュー・感想・評価

平成ジレンマ(2010年製作の映画)
4.5
『ホームレス理事長』同様、単純すぎる正義感が生み出す暴力の瞬間がうんざりするほど繰り返し映し出される。

教育に一定の厳しさは必要だと自分は思っている。今の学校教育がいいとも思わない。

でもここで行われてることは、最低で最悪な下劣な暴力だ。結果として幸せになった人がいるから肯定されるものじゃない。そもそもほんの一部の職員以外、子供に目を合わせようとさえしない。挨拶も自分達が全然ちゃんとしてない。家畜に接する以下の態度で、生命に対する尊敬がまるでない。まず自分らから教育し直すべきだと思わない客観性のなさが異常であり、この状態は完全にカルトである。

一方でこの理事長のそれこそカルト的な吸引力というのも無視すべきではないとも感じた。囲み取材をしているメディアの人たちの通り一遍で思考停止の質問の数々は、子供たちの目も見ない最低な教員たちと無思考という点において相似形を成している。実際に行き場のない子供たちを生み出している責任の一端はメディアにもあり、このヨットスクールが一部の人たちにとって拠り所になっていることは事実。本気で義憤に駆られて怒りを滾らせる理事長の眼差しは狂気的だが真剣ではある。この眼差しに社会は本気で対峙しないといけない。それは危険だから、ということだけではなく、その言葉の一部には聞くに値するものもあるから。

そう考えるとこの作品の作り手たちは本当に対峙しきっている。
絶妙なバランス感覚と残酷なまでの倫理観でこの作品を作り上げている(そしてそれを戸塚ヨットスクール側は撮らせている)。

本当に作り手たちに尊敬の拍手を送りたいです!テレビでこういう作品が溢れかえることこそが希望じゃないかな。
牧史郎

牧史郎