「不戦勝」
冒頭、女性の静止画。
兵役を終え30歳を目前に控えた流れ者のボクサー。列車、地方都市、偶然の再会、旧知の娘テレサ、行動を共に、経験、初心者向けボクシング試合、出場、優勝、商品の獲得、今、約1日半の出来事を描く。
本作はイエジー・スコリモフスカ監督の”アンジェイもの"の第2作目で、この度初見したが素晴らしく、本作は冒頭から引き込まれる。女性のカメラに表情を向けたスチル画像から始まり、不意に画像が動き始め、背景には列車が通過する。
そこで女性の叫び声が…それは彼女が飛び込み自殺をしたのである。
続く列車の車窓から男性が声をかける。荷物を預け、小さな家具屋でラジカセを売る。
さて、物語は地方の駅に列車で来た青年がプラットホームで偶然見かけた娘に声をかけられる。
彼女の名前はテレサ。彼女はこの街のエンジニアとして勤務する予定である。
一方、青年のアンジェイは工場長との面接へ行く彼女と行動を共にする。質屋のおっさんと言葉を交わし、彼の友人らしき男に声をかけられるも無視をする。
そして偶然知り合ったアンジェイとテレサの前にマリアンと言う若者が現れ運転するトラックに乗せてもらい工場へ向かう。
到着した2人は工場長と面談し、そこで2人の工科大学の時の事柄が明かされ始める…と前作の「身分証明書」の続編の立ち位置を持つ本作は脚本、監督を担当し主役も演じた。
ところで連続して見てみると色々と突っ込みどころがある映画だなぁと感じ取れる。
まず続きものなのに年齢やイデオロギーや立ち位置が少しずつ違う。ところが物語の終盤に差し掛かると前作と少しばかり繋がる下りもある。そこはうまく繋いでいるような気がする。
ところで監督の反社会的な事柄が反映している。
それに加え、役者の台詞が沢山あって字幕を読むのが精一杯だ。それに謎なのが、何故か主人公の青年に呼びかける青年の事を無視し続ける彼の意図とは何なんだろうか?
本作を見た人ならわかると思うが…本作のテーマの1つにはボクシングがあるが主人公の男女以外に最も集中的に映される物がある。
それが腕時計とトランジスタラジオである。
ちょくちょく、冒頭の自殺した女性の死の影を暗示、またシンボリック化する演出がある。
本作はラストがとても良くて、勝てぬ対戦相手に〇〇し、逆に〇〇されて終わる…。
それに断片的に見せる方法も監督らしく、中々難しい映画だが、人間の弱さを映しながらも闘士に燃える青年や女性を見事に描いた作品だ。
街の犬らの描写や長回しは前作同様にある。
本作の印象としては役者が固定カメラに眼差しを向ける演出が目立つ。
列車の外部分から風景やバイクに乗った青年を捉えた場面は画期的で、不意に煙草に火をつけて欲しいと女性が来るのも、いきなり列車から飛び降りる青年も印象的だ。
ラストのシーンは衝撃的だし、ジャズが流れるのもジャズファンとしては堪らない。
まだ未見の方で、娯楽映画以外も観れるって方にはお勧めしたい。スコリモフスキ作品は大抵70分から80分代で終わるし、見易い…ザビエルシャンカとハミェツの芝居は良かった。