ニューランド

アンティゴネ~ソポクレスの《アンティゴネ》のヘルダーリン訳のブレヒトによる改訂版1948年のニューランドのレビュー・感想・評価

3.6
☑️『アンティゴネー』及び『黒い罪』『セザンヌ』▶️▶️
その方の知識なく、この作家の研究書も当然持ってないので、この文学的背景·ベースには無知だが·その尊重のストレートかつ毅然はここでも感じざるを得ない流れ、ギリシャ悲劇『オイディプス』関係·その後の話なのか、その一族が、当時のテーベの王クレオンの、対アルゴン戦や国内に於いても、残虐な侵略·非人道圧政で、知らず反発·滅亡に向かう中で、人道·国家より家族·そもそも君主の身勝手独裁に対してと、最初に歯を剥く作品で、あの特徴的な長く速い·やや俯瞰め退きのパン多用めは20年以上?経ってても憶えていた。それを含めても映画としてのバランス·統一性は、20世紀の記憶を辿ると、この作家の代表作の1本『モーゼとアロン』位いい。この作家の最大の美点である、今も生き得る古典のそのまま原型を、現代·現在の特定の場·特定の時間で創り·演じて空気の交感·時に見方によっては隙間風を敢えて醸し出す事は、当然ここでも重要で、あたかもその時代に知らず溶け込んだような錯覚を持たせるという形でセールスする、現代に併せた翻訳という形での違和感排除の形をとるかもわからない、商業主義の映画の一元性の閉じられ·限定された世界は、もっとも遠いものてなってる。ここでは市街地とも遠くない古代遺跡のある場を野外演劇的に使い、冒頭の姉妹から、長老ら·国王·伝令らと拡がり·組合わさり·消えて消息内でと画面内の存在が変移·かすれていく中で、その場を動かない王こそが、早々前線引揚げ·押し付け、現実逃避の·最大の小心者とわかってゆく。
先のパンを含め、俯瞰め多用、目の高さ寄りに降りたカットだとバックが蒼空に抜けたりもする、複数人や個人のアングル·サイズが説明に媚びず、強い世界のあり方と拮抗し、バランスも独自で普遍でもある素晴らしいものとなってる。人物が画面オフに出て無人となってもカットを切り換える事はしない。ややプリントは旧びて少し褪色してきているが、元々そんなにけばけばしいものでもあるまい。
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実はこの時間は一週間前か1度観て感心したジョナ·ヒル作品を最終回で再見しようとも思ってたのだが、キネ旬のベストテン号を立読みすると、識者の評価はそんなに高くないのかと、憤る代わりに意気消沈して止めてしまった(我ながら情けない)。空き時間をどうしようとストローブ=ユイレを急に思い付く。『 アンティゴネー』の前に観た『 黒い罪』は、最初の1990年代半ばの上映企画に入ってなくて、2回目からリストに加わった気がするが、それにしても美しいままのプリント、只途中からバックの明るさで当時の字幕技術のせいか、あるいはこの20年の間にプリントを洗浄したせいか、字幕が細い線で読みにくかった(火災の後、洗浄して字幕打ち込み周りの盛上りが削られたFCの90分版『ゲームの規則』のようだ)。『エンペドクレス~』の記憶が20数年経ち曖昧だが、権力や民衆からも追放され、ただひとり周りに誰も存在しない高地で、自然の広さに溶け込み、死すべき運命を受け入れて、漂う霊気や·地下からのつよい力も感じ受け取り、個々が自分にだけ従う境地に達しているエンペドクレスを、関係を求めたりして訪ねくる三人の男女の各々との対応となってるのが本作だ。トゥショットや各人の、微妙で力強いアングル(高低も含め)·サイズの選び取りが、厳粛で圧巻、カメラ位置によって地面の土の面積·背後の樹木·緑のあり方も変わり、かつ唯一絶対に美しい。昔観たきりでその時あまりの重力·絶対性に息を呑み続けだった『エンペド~』を見終わった時、友人が台詞かぶる無人の自然カットらのパンが延々長く美しかったね、というので全部固定カットの筈·そう見えたけど、と応えた事がある。続篇の本作を観ると、朗々台詞下の無人風景カットは少しか·僅かにパンしてる。その前作もそうだったのだろうか。四半世紀に渡る私達の疑問ではある(見直せばいいが、仕事と大抵観たい作はバッティングする)。
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『セザンヌ』は、『ボヴァリー夫人』(ピエールは弟と違い明らかに父親似で、いきなりその顔が来て改めてハッとした)や『エンペド~』がかなり大きな塊りとして普通に入ってきて、絵画や肖像写真と解説の所が延々という堅苦しさからは遠く、語られることも細々解説ではなくて、自由な姿勢の息吹きで実に心地いい。これもまた素晴らしい、と再確認か、或いは認識をかなり新たにか、した。
「解釈などするのではなく、単に感覚で受けとめ捉え、流すこと」「光のなかに、それと同化してありたい」
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