映画漬廃人伊波興一

地獄の拍車の映画漬廃人伊波興一のレビュー・感想・評価

地獄の拍車(1957年製作の映画)
4.0
どの世界にも退屈な「名作」よりもはるかに面白い「無名作」が存在します。
少し思い出してもラリー・ピアースの「ある戦慄」(1967)ジョン・ギラーミンの「かもめの城」(1965)ジャック・クレイトンの「回転」(1961)や近年ではガブリエル・ベルティエの「クリミナルズ」(2011年のカナダ映画です。似たようなタイトル作品が何本かありますので)そして我らがリンコ・キクチ主演、デビッド・ゼルナーの「クミコ、ザ・トレジャーハンター」(2014)等々・・

この「地獄の拍車」を観てまた無知を恥じました。と同時に批評家さんたちも活動も怠慢だと嘆きました。

この作品自体が日本未公開ですから当然邦題はテレビ放映にあたってつけられたんでしょうか?意味深な響きはありますが見事なまでにセールスポイントが少ない作品(キャストとスタッフ通して知っていたのは音楽担当のエルマー・バーンスタインだけ。後からカートラッセルの父上が出ていたは知りましたが)を「鑑賞欲離れ」を文字通り「拍車」をかける結果になっていた気がします。

ホール・バットレットという名はそのフィルムグラフィーを見渡しても日本未公開ばかりで本国でも評価からは程遠い存在だったかもしれませんがこの作品では監督だけでなく製作も脚本も兼任されているから並々ならぬ熱意を込めたことが作品の出来からうかがえます。

活劇を期待して劇場に来た観客を見事に裏切ったことでしょう。製作される時代と水が合わなかった時々起こり得る映画史の悲劇です。そんな故のない悲劇を防ぐことが評論家の責任ではなかったのか?「作家主義政策」はホークスやヒッチコックだけが対象ではありません。今ではクリント・イーストウッドあたりががっつり取り組んでもおかしくない企画です。まだ未見の方々、チャンスがあればぜひ一度ご覧あれ。劇中、婦人が「戦争に負ければ残された者は骨一本でも奪い合う」というセルフが今更ながらに印象的でした