組織にうんざりしている殺し屋ドナルド・サザーランドを淡々と追ったハードボイルドなサスペンスだが、現在（現実）と過去の記憶（夢）が鬼のように行ったり来たりする異様な構成になっていて、サザーランドが中心ということもあり、これはやはりニコラス・ローグのスタイルをあえて踏襲しているのだと思う。殺しを重ねて結局は妻との痴話喧嘩に付き合わされただけのようなオチ。サザーランドの隠れ住まいが立方体をいくつも積み重ねたような恐ろしくカッコよい建物だったり、肝心なところでは銃ではなくナイフで一気に片を付けたりと、見所はそれなりにある。「朝食はなにがいい？」「あなた…」。

職業は殺し屋だが、ドナルドサザーランドはローグ「赤い影」の男をまた演じているような。新旧目眩がするような美しい建築物とインテリア。ヨーロッパの格を見せつけられる。ロケ地どこよ。冒頭、失踪した妻のポートレートがあったはずの場所には、終盤長い仕事を終えて帰宅すると自分の写真になっている。ラストを予感させすぎの演出がたまらない。

サザーランドの渋み満点。ムードもたまらん秀作。