レインウォッチャー

ROCKER 40歳のロック☆デビューのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

3.0
週刊DrCU(ドラムシネマティックユニバース)⑦(終)

「スティックは剣よりも強し」ンッン〜〜名言だなこれは。

ドラマーのフィッシュ(レイン・ウィルソン)は、ブレイク目前でバンドをクビにされてしまう。見返してやると誓う彼だったが、気付けば20年の時が過ぎた。
仕事も住処も失い姉の家に身を寄せた彼は、甥っ子から学生バンドのサポートドラムを頼まれて…

子供時代から抜けきれない大人、所謂アダルトチルドレン的な男が若い世代にロックを説くというプロットは、やはり『スクール・オブ・ロック』('03、ジャック・ブラック主演)を思い出すところ。
しかし今作はもっと反面教師的とでも言おうか、相手が小学生だった『スクール〜』に比べれば自我がはっきりした不機嫌なティーンエイジャーたちがバンドメイトということもあり、「しかたねーなコイツ…」という感じで共助関係へと向かう。

後半には、メンバーとの反目→和解やトラウマ(=昔のバンド)との再会→打倒といった定番の展開が用意されているのだけれど、そのどれもがフィッシュ自身の覚醒とあまり噛み合ってない(勝手に向こうから解決)ようなのは惜しいところ。イイ話「風」だけれど、実は成長してないよね?みたいな。

とはいえ、そこはレイン・ウィルソン劇場。
『スーパー!』やドラマ『ジ・オフィス』お馴染みの、アダルトチルドレンとかいうより前に「親戚には居て欲しくない人選手権」永年シード枠的キャラクターでの大暴れがずっと見られる。なんか遺伝子に誰かがうっかり自転車をぶつけちゃったんだね…と思わせるその姿は、成長のさせようのなさという点で結果的にはハマっているといえるのかも。

ドラム演奏はアテブリぽくはあるものの、80年代メタル出身らしい誇張されたアクションや、音より数倍うるさい顔面が良い。
それに、いくつかドラマーならではの思いを解像度高く代弁してくれているシーンがある。

ひとつは生演奏信奉で、打ち込みのドラムループを使おうとするガキを「エレベーターのBGMと変わらん」と一蹴する様からは、腐ってもドラマーじゃ、というプライドが垣間見える。(まあはっきり老害なんだけれど…)

もうひとつは「ドラムは最高の特等席」ということ。
後ろに引っ込んで目立たないとも言われがちだけれど、とんでもない。ギターとベースの間から、メンバーを見守る。こんなに贅沢なことはない。
それを視覚的にも再現したPOV視点やベーシストとのアイコンタクトなど、わかりみが油田のごとく噴出するポイントで、図らずもちょっと泣いてしまった。

フィッシュが入るティーンバンド、A.D.Dの楽曲(映画オリジナル)がまた素敵なのだ。
マシュー・スウィートやヴェルヴェット・クラッシュなどを彷彿とさせる、オルタナ以降のパワーポップ。
きらきらと宙に粒となって輝くキーボードやコーラスは人の思ひでを強制的に揺り起こす。フィッシュの「青春のやり直し」としては最高のバンドだったといえる。

ところでベースの女子がエマ・ストーンに似てるなあと思ったらエマ・ストーンだった。
わたしはゲレンデやマスクと同じくらい「ベース・マジック」があると信じている。それが炸裂した今作の彼女は、キャリア中でも屈指の可愛さでは…と思う。