TaiRa

サウスランド・テイルズのTaiRaのレビュー・感想・評価

サウスランド・テイルズ(2007年製作の映画)
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『ドニー・ダーコ』と『ドミノ』の脚本で華麗なホップ、ステップを見せたリチャード・ケリーがジャンプの助走で盛大にコケて脳天かち割ったのが本作。

2005年にテキサスが核攻撃され第三次世界大戦が勃発。アメリカは愛国法を拡大し国民の監視を強化した警察国家に。舞台はそういった前段をダイジェストですっ飛ばして大統領選を控えた2008年のアメリカになる。映画はいきなり第4章から始まるが、それまでの流れはケリーが描いたグラフィック・ノベルにあるらしい。主人公は共和党の上院議員の娘と結婚したアクション俳優のドウェイン・ジョンソンで、彼は失踪した後、記憶喪失になる。その彼を発見して面倒見てるのが意識高い系ポルノ女優と怪しい映画製作者で、彼らは政府打倒を掲げる新マルクス派の活動家と繋がってる。新マルクス派の活動に協力するイラク帰還兵の警察官や元映画俳優の帰還兵なんかも話に絡んで行く。その上、新エネルギーを発見したノーベル賞科学者が裏で暗躍しているというポリティカル・サスペンスも混入。かくして世界は崩壊への道を突き進むのだ。混沌とした群像劇にブラックユーモア、そしてSF要素とセカイ系要素。まるでデヴィッド・リンチと『キッスで殺せ!』と『ナッシュビル』をミックスしたような感じ。『ドニー・ダーコ』に引き続き時空移動の要素が組み込まれる。実は失踪したドウェイン・ジョンソンは時空移動して現代にやって来た少し未来の彼であり、現時間帯の彼は既に暗殺されていたのだ。その未来の彼の脳には世界崩壊のシナリオが埋め込まれていてそれを映画脚本にしている。一度死んで蘇った彼は現代のキリストで彼に寄り添うポルノ女優はマグダラのマリアって事か。そして混沌の中で世界が終わる。T.S.エリオットの「世界はドカンと終わらずメソメソと終わる」をひっくり返した言葉「世界はメソメソと終わらずドカンと終わる」が何度も語られる。『ドニー・ダーコ』は青年の死を世界の終わりとして描いたが、今度は傷付いた帰還兵の自己肯定によって世界が文字通り終わる。ポスト911の黙示録をセカイ系として描いたリチャード・ケリーはアメリカの庵野秀明になれる逸材だったな。

元俳優の帰還兵をジャスティン・ティンバーレイクがやっていてザ・キラーズの「All These Things That I've Done」を歌うミュージカルシーンまである。
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