溌狩

ザカリーに捧ぐの溌狩のレビュー・感想・評価

ザカリーに捧ぐ(2008年製作の映画)
4.0
「ザカリー」は父親を亡くした赤ん坊だ。
父、アンドリューはザカリーが生まれる前に元恋人に殺害されてこの世を去った。そして、母、シャーリーはザカリーを身籠った体でアンドリューを銃で撃ち抜いて殺害した。この映画はアンドリューの親友だった監督が、ザカリーに父親の生前の姿を伝えるために作られたドキュメンタリー映画。のはずだったが、撮影中に事件は再び坂道を転がっていく。

途中までは全米各地にいるアンドリューの友人や親族を訪ねて、彼がどんな人物だったのかをインタビューしていくという映画で、それだけでも「たった1人の人間が生きて、人に愛されていたのに今はもういない」ことが感じられて胸が締め付けられるのだけど、後半に入るとさらなる現実の苛烈さや惨さが押し寄せてくる。
インタビュー中にアンドリューの友人が漏らした「私はあれ以来神に祈っていない。信仰が揺らいだんだ」という言葉の切実さが苦しい。

目を背けたくなるような事件を扱っている作品だし、当事者でもある親友が撮影している作品なので、相当に重いトーンの映画なのかと思っていたら、意外にも世界仰天ニュース的なテイストの編集で驚いた。ラストも一応は未来を見据えた形になっていたけど、そうでもしないと陰鬱になりすぎてしまうのだろう。アンドリューとザカリーを映した映像を怒りと憎しみで塗り潰したくなかったのかもしれない。
ごく近い距離にいる人間が撮るドキュメンタリーだからこそ、このテイストにすることができたんだろうなと思った。
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