コーカサス

天使の入江のコーカサスのレビュー・感想・評価

天使の入江(1963年製作の映画)
4.5
“この情熱のお陰で生きていられる”

パリで銀行員として真面目に働くジャン(マン) は、同僚に連れられ初めて訪れたカジノで大当たりしてからすっかりギャンブルの虜になり、南仏ニースでカジノ通いの日々を過ごしていると、そこで出会ったブロンドの女性ジャッキー(モロー) に惹かれ、ふたりは益々ゲームへのめり込んでいく。

ジャック・ドゥミ監督の長編第2作。
それはオープニングから心掴まれる。
ミシェル・ルグランのピアノスコアと共に、“天使の入江” 沿いを通る“英国人の散歩道” にひとり佇むジャッキーを捉えたキャメラが猛スピードで遠ざかる疾走感からカジノの緊張感、さらには男と女の躍動感へと常に胸踊らされ、ピエール・カルダンによるモノクロを意識したモローの衣装とも見事に調和する。

小道具としての演出なのか?フランスで最も有名な煙草のジタンを吸うマンに対し、アメリカ生まれの両切りラッキーストライクを吸うモロー。
封緘紙を剥がし、全開けにしたソフトパックから一本取り出しては火を付け、紫煙をくゆらす姿がカッコいい。

妻のアニエス・ヴァルダ監督がカンヌ映画祭に『5時から7時までのクレオ』を出品した際、同行したドゥミが友人に誘われカジノへ行き、そこで目にした人々の賭けに魅せられた地獄のような情熱にショックを受けて、これをアイディアに僅か数日で脚本を書き上げ、既に仕上がっていた『シェルブールの雨傘』を中断してまでも本作を優先し仕上げた逸話も実に興味深いではないか。

“賭けの魅力は、贅沢と貧困の両方を味わえること”

ともあれ、“人生”という回転盤に放り出された玉のように、何処とも無く転がされていく男と女の残酷な運命を描いた傑作であることには違いない。

108 2021