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五月のミルのSariのネタバレレビュー・内容・結末

五月のミル(1989年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

母親の葬儀と五月革命に揺れるブルジョワ家族の狂騒劇。脚本家ジャン=クロード・カリエールとの共同脚本作。

1968年5月。美しい田園地帯にあるヴューザック家で、長男ミルと2人で暮らしていた老母が亡くなり、ミルは母の葬儀のため自分の娘や兄弟たちを呼び寄せるが、ブルジョワ一家の最大の関心ごとは遺産分配、家具や食器を売ることでバタバタしている。金や革命などという世俗の事柄にはまったく無関心なミルは葬儀の準備を進めていたが、葬儀屋までがストを決定。葬儀は一日先延ばしにして、ピクニックを始める…。


『さようなら子供たち』の次作で、ノスタルジックなおおらかさ、スラップスティックな演出を交えて描く、ルイ・マル監督円熟期の力量をまざまざと感じる大人の群像コメディ。

主役ミルを演じるのは、良い感じに歳を重ねた当時64歳の名優ミシェル・ピコリ。味わいの深い演技が堪能できる。
自然をこよなく愛し、少年の心を失わないゆったりと人生を楽しむ夢想家のミルが、緑が豊かな川でザリガニを捕るシーンが美しい。

ストのためになかなか埋葬してもらえない、亡くなった老母はジャン・ルノワールの作品で名高いポーレット・デュボストが演じる。
大人たちの恋愛模様やピクニック・シーンはルノワールを意識しているよう。

嫌味だがキュートな魅力が隠せないブルジョワの若奥様をミュウ=ミュウが演じており、役名カミーユは、ピコリが出演したゴダール『軽蔑』を思い出す。単なる偶然か、皮肉なのか…。
カミーユの従姉クレールがレズビアンという設定もルイ・マル監督らしい。彼女がゲームを言い出し、自ら上半身ヌードになり胸を露出させる場面は、『ブラック・ムーン』(1975)のセルフオマージュだろうか。

カミーユの娘でミルの孫フランソワーズが『地下鉄のザジ』のように好奇心の盛んな娘で、大人たちとの対比が面白い。

フランスのジャズ・ヴァイオリニスト、ステファン・グラッペリが奏でる音楽が物語りを軽やかに演出する。

2022/12/07 DVD
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