てつこてつ

五月のミルのてつこてつのレビュー・感想・評価

五月のミル(1989年製作の映画)
3.5
学生時代にVHSレンタルで鑑賞して以来。HD版DVDが存在したのでレンタル。

1968年にフランスで起きた「五月革命」を時代背景に、平穏な田舎町を舞台に、亡くなった老女の葬式のために集まった個性豊かな親族たちの人間模様をシニカル描き出す・・。

ルイ・マル監督と聞くと、どうしても「死刑台のエレベーター」のような初期の作品群に見られるヌーヴェル・ヴァーグの先駆者的なイメージが強いが、本作や「さよなら子供たち」のような晩年の作品では、奇をてらわない落ち着いた円熟味溢れる演出で、良い意味で“分かりやすく見やすい”内容となっているなあと感じた。

それでも、いくらフランス映画と言えど、1989年にゲイの若い女性キャラクターを登場させるなど先見の明が見られて流石と思わせる。
タイトルだけだと、てっきり可愛い子役が主役かと思うが、ミル役は頭も禿げ上がったフランスを代表する名優ミシェル・ピコリという皮肉も面白い。

会話の中で五月革命や共産党、学生デモなど政治的な話題も多く出るが、特にフランスの近代史に詳しくなくても、フランス映画が好きな方なら純粋に楽しめる内容だと思う。

まだ幼い子供がいる前で真っ昼間から大人たちが堂々とSEXについて論議したり、ヒッチハイクで乗せてもらったトラック運転手をそのまま屋敷に居着かせたり、老女の亡骸を前にしても誰一人涙を見せることもなく、中には唐突に悪口を言ったり・・といったフランス人らしい鷹揚かつ個人主義的な考え方も興味深い。

本作に限らず、フランスの田舎町を舞台にした作品は、やはり、緑溢れる大自然に囲まれた長閑な風景が美しい。大きなテーブルを囲み親族一同でブランチする、豪華でなくとも様々な食材が並んだ色彩に満ちたテーブルは見ているだけで食欲をそそられる。蝋燭の灯りの下でのディナー、大木の下でのピクニックなど、本作でも皆で食事を摂るシーンが随所に登場する。

特にドラマチックな展開があるわけでもないストーリー内容ではあるが、会話劇中心なので、フランス語が分かればもっと楽しめたであろうな。例えば、日本語字幕が少々古いなあと思われる部分もあり、“色魔”とか、今の若い人に通じる言葉なんだろうか?

自分自身、アンティークには全く興味はないが、家具が遺産相続の対象になるという、田舎とはいえフランスのブルジョワ階級の豪邸ならではの豪華絢爛な内装も見どころの一つ。

個人的にはミルがザリガニを捕るシーンが、コミカルでありながらもショッキングで一番印象に残った。
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