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袴田巖 夢の間の世の中のwigglingのレビュー・感想・評価

袴田巖 夢の間の世の中(2016年製作の映画)
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先日観たばかりの『ふたりの死刑囚』でも描かれていた、2014年に釈放された袴田巌さんのその後を追ったドキュメンタリー。本作ではそれまでの経緯に触れる事はなく、巌さんの日常を淡々と映し出しています。

釈放直後の巌さんは、精神状態にかなり問題があることがスクリーンを通しても分かる程。48年も独房に閉じ込められことで拘禁反応という症状が出ていたそうで。
拘置所での習慣と思われる、同じところをぐるぐると歩き回る、食事前に妄言を唱える、食後にはイリスト風味パンという架空の食べ物をねだる、そして自分は全知全能の神として世界に君臨していると信じ込んでいる、等々かなりヤバい感じ。
よく考えると、半世紀も監禁されていた人を観察するという経験は誰もしたこと無いはずなんだよね。不謹慎な言い方かもしれないけど、すごく貴重な映像だし、医学的な見所もたくさんあるはず。

そんなわけで、姉の秀子さんの家で身の回りの世話をしてもらいながらの生活です。秀子さんはずっと巖さんを信じて冤罪を訴え続けてきた方でもあります。繰り返される妄言や奇行への対応もこなれたもの。
彼女はただ「巖が生きていてくれて良かった」という。その言葉には国への怒りなどはなく、弟を生かしてくれていた事に心の底から感謝している。人間って凄いんだって事を思い出した。

時を経るにつれ巌さんの精神状態も落ち着きを見せ始め、一人で買い物をこなせるようにまでになる。失われた時間は取り戻せないけど、心穏やかに余生を過ごせるよう祈りたい。

冤罪や死刑制度といった、この国の刑事司法の問題については『ふたりの…』の感想にたくさん書いたので、良ければそちらも見ていただければ。
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