ミシンそば

自由を我等にのミシンそばのレビュー・感想・評価

自由を我等に(1931年製作の映画)
3.5
世界最古の映画祭であるヴェネツィア国際映画祭の、審査員と言う概念さえない第一回受賞作(当然、金獅子賞もムッソリーニ杯もない時代)、三本のうちの一本。
だからこの映画を金獅子賞連続鑑賞のトリに持ってくるのもどうかとも思ったが、やっぱり明日最新の受賞作を観るんだからってことで鑑賞。

チャップリン信奉者のルネ・クレールが、逆にそのチャップリンに影響を与えたと言う快作。
脱獄囚二人、最初の脱獄で塀の外に辿り着けたのは一人だけ。
物質主義的な大量生産体制の中で、労働者が搾取される様をコミカルに、説教臭くないスタイルで皮肉りつつ描写する様は、共産主義の正体をまだ世界が深く知らない時代、未来が希望に満ちていた時代だからこそ出来る作風なのだろう。
時代的にサイレント映画がまだ辛うじて息をしている(今日でも一ジャンルとして生存しているし、自分もその実嫌いではない)ので、トーキー映画とし思えないようなドタバタ演出も多い。

すでに述べているが、体制批判を痛烈にしつつも、説教臭くして映画の面白さを半減させる愚かな選択はしていない。
そしてこっちもすでに述べたが未来への希望というのもやっぱり満ちていたな。
本当に、作風全部が柔らかくて、(サイレント的ドタバタも含め)寓話的と言ってしまって映画なんだが、時にはこんな映画も強烈に観たくなる。