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欲望の旅のnetfilmsのレビュー・感想・評価

欲望の旅(2003年製作の映画)
4.2
 撮影のロケハンのため、南カリフォルニアを旅行するデヴィッド(デヴィッド・ウィザック)とカティア(カテリーナ・ゴルベワ)。恋人同士のふたりは道中何度も愛し合い、お互いの気持ちを確かめ合う。冒頭、男と女が車であてのない旅へと向かうのだが、この2人の関係性や背景がまったく描かれない。2人は夫婦なのか?それとも恋人同士なのか?または不倫相手なのか?それらは結局最後までわからぬまま物語は進んでいく。またこの2人の旅の目的や目指す目的地も、2人の関係性と同じようにはっきりと提示されない。おそらく男の側は映画監督が写真家かそういう職業の人物だろうと推測出来るが、彼の社会性を示す行動が具体的に一切明示されていない。女は女優かモデルのどちらかであろう。この2人が自分たち以外の他者と積極的にやりとりをした場面というのは、食事のために入ったレストランで注文した場面のみであり、それ以外は全ての場面が、この2人しか世界にいないかのように描かれる。だからこそ、ラスト15分の突発的な他者の介入には驚き、陰惨な気持ちにさせられた。

 カメラに関して言うと、プールの場面と夜中の道路でケンカする場面で印象的な長回しが見られる。デュモンは室内よりもロケーションの演技の付け方の方が遥かに上手い。食べる、まぐわう、排泄する、寝るという一番人間の原始的な欲求を、ただひたすら淡々と繰り返しているだけのようにも見えるが、実は男女の些細な機微やすれ違いを捉えるのが上手な監督だと思う。運転手を変わった時の不機嫌さとか、犬を轢いてしまった時の狼狽の仕方とか、些細な演出が実に器用でリアリティがある。この男女の一貫して低体温な様子が観ていてつらい人もいるだろうが、私はかなり楽しめた。2人は心底愛し合っていないし、おそらく肌を重ねた回数ほどの互いへの理解もない。劇中何度精神的にぶつかったかを考えれば、とても相性の良いカップルには見えない。だからこそのラストの主人公の判断なのかもしれないが、映像で提示された事実には、心底嫌な気持ちになる。今作で大胆なヌードを惜しげもなく披露したカテリーナ・ゴルベワはもうこの世にいない。『パリ、18区、夜』『ポーラ X』そして今作と素晴らしい映画的記憶だけを残し、44年の短い生涯を閉じた。故人のご功績を偲び、謹んで哀悼の意を表したい。
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