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TOMORROW パーマネントライフを探してのchiakihayashiのレビュー・感想・評価

4.6
 地球規模の人類の危機を回避し、未来の社会をポジティブに構想するために世界中の〝新しい暮らしを始めている人々〟に会いに行く−−−−というドキュメンタリー。政策提案型という点では『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』と共通するけれど、こちらはさすがにフレンチ・シックというか、爽やかにオシャレな感覚。2016年セザール賞ベスト・ドキュメンタリー賞を受賞し、110万人が観た記録的な大ヒットに。
 女優で監督作品も発表しているメラニー・ロラン(1983年生)が、ジャーナリストで編集者で活動家、俳優をしていたこともあればアニメーションビデオの監督もしたことがあるというシリル・ディオン(1978年生)と組んで産み出した作品。
 まず紹介されるのは、自動車産業の一大工業都市だったデトロイトが人口の大幅な減少と貧困化で新鮮な食品すら手に入らなくなったため、住民たちが都市のど真ん中で自給自足のために土を耕して畑にしていったとか、町の花壇や公共の土地に野菜や果物を植えて住人たちが共有するインクレディブル・エディブル(みんなの菜園)運動とか、パーマカルチャーで最も成功した農場など。
 次いで、2025年までに二酸化炭素の排出をゼロにする目標を掲げて市民の50%が自転車で移動するコペンハーゲンの都市デザイン、温室の屋根にソーラーパネルを設置するのと引き換えに温室を無料で農民に提供しているエネルギー会社、「環境配慮型の生産体制の方がより経済的である」というポリシーで20年間運営されてきた封筒づくりの会社。
 地域通貨も取り上げられているのだけれど、なんといっても驚きは1929年の世界恐慌を経験したスイスの15人の起業家が設立した銀行で、使用範囲が限られた無利子の〝通貨〟を作り、相互貸し付けシステムを提供しているという例。設立から80年後の今日ではスイス中小企業協会の5分の1から利用され、この〝通貨〟が国家経済の安定性に貢献しているとの研究もあるそうな。お金ってそんなふうに新しく作って流通させることもできるんだ!
 経済を民主主義的に調整するためには、民主主義を正しく機能させる聡明な市民がいなくてはならない−−−−というわけで、インドの村長さんたちのための学校やマイケル・ムーアもビックリぽん!したフィンランドの教育改革も。
 メラニー・ロランって整った顔立ちをしているものの、特に際立った美貌でもなければ強烈な個性の持ち主でもないのに、映画で彼女が出てくると視線が引き寄せられる女優さん。私が見た限りでも『黄色い星の子供たち』(ローズ・ボッシュ監督、11年)や『人生はビギナーズ』(マイク・ミルズ監督、11年)、『リスボンに誘われて』(ピレ・アウグスト監督、14年)など、しっかりとものを考えて奥行きのある女性を演じている印象だったけれど、やっぱりとても賢くてナチュラル志向でセンスのいい女性だったのね。
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