むるそー

怒りの日のむるそーのレビュー・感想・評価

怒りの日(1943年製作の映画)
4.2
魔女狩りが横行していた中世のノルウェー。牧師・アプサロンと若妻・アンネの夫婦のもとに、アプサロンの息子・マーチンが帰ってくる所から物語は始まる。アプサロンの元で女性としての生活を諦めた彼女が、同年代のマーチンとの禁断の恋によって女性性を復活させ、そして魔女として裁かれるまでを描く。

「裁かるるジャンヌ」と同じく、当時の宗教観にとっての信仰とは何かを描いた作品。アプサロンの事故死の裁判において、彼女は自身が魔女であると自白する。自分とマーチンの関係にとって邪魔だったアプサロンを心の中で何度も殺したからだ。彼女の自白は追い詰められて末の諦めではなく、実際に自身の魔女の力を使ってアプサロンを殺めたと信じたからだろう。科学の介在しない時代、不可解なことは悪魔や魔女によるものだと考えるしかなかった。当時の信仰とは人間の内面の思考の自由を縛るものであり、それはつまり全員を悪人と断罪できるあまりにも曖昧な法だったに違いない。

それにしても、若妻と義理の息子の禁断の恋の構図もマーチンを見つめるアンネの表情もすごく官能的で、本当に魔女なんじゃないかって思うほどの内在する怖さがあった。これは流石にトーキーだからこそ表現できるものだと思う。
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