櫻イミト

若草のふくらみ ファニー・ヒルの櫻イミトのレビュー・感想・評価

3.5
「哀れなるものたち」(2023)の原作元ネタとして、『フランケンシュタイン』(1818)と共に挙げられる史上最初の性愛文学『ファニー・ヒル』(1748)の映画化。オリバー・リード、シェリー・ウィンターズ、ウィルフレッド・ハイド=ホワイトなど有名俳優が脇を固めるメジャーな耽美エロス作。

18世紀のロンドン。両親を病気で失ないリバプールの田舎から出て来た18歳のファニー・ヒルは高級娼館のマダムにスカウトされる。運命的な出会いと情事を重ね快楽を通じて成熟していくファニーのシンデレラ・ストーリー。。。

確かに「哀れなるものたち」とプロットも世界観も似ていた。同じく無垢な魂を持つ女性の性愛を巡る旅が描かれる。性愛描写はしっかりと露骨だが下品さは感じられずメルヘンチックな風情。同作との最大の違いは主人公が”怪物”ではなくディズニー・プリンセスのような純真で優しいキャラクターであること。演じたリサ・フォスター(当時18歳)のルックスも同様で、後にCGアニメーターに転身しディズニーアニメ「白雪姫」(1937)のデジタル修復で成功を収めるキャリアは運命的だ。

原作は度重なる発禁処分を受けながら約200年間、地下出版物として脈々と読みつがれてきたもの。1966年に公的出版が許された際には「性のよろこびをこれほど優雅にやさしく描いた小説はほかにはない」と評された。本作はそのイメージ通りの仕上がりで、美術セットはゴシック的で衣装はロココ風、映像も一定水準を満たし安っぽさはない。そんな画面の中で、他人の性交を穴から覗いたり、娼婦と客が組んでのSM子芝居披露会を開いたりと、好事家が歓びそうなシーンが繰り広げられる。

一言でまとめれば、エロスとユーモアを展覧するかつての”秘宝館”のような映画。このような映画は意外に見当たらず希少で貴重な一本だと思われる。

※『ファニー・ヒル』の映画は、Wikipedia(英語版)で一部紹介されているだけで8本もあり何度も作られている。今回の鑑賞にあたり、最初の映画化である1964年アメリカ×西ドイツ版(ラス・メイヤー監督)、1968年スウェーデン版、2010年イタリア版を映像チェックしたが、主演や映像の雰囲気から本作が決定版だと個人的には直感した。
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