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13回の新月のある年にの海のレビュー・感想・評価

13回の新月のある年に(1978年製作の映画)
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恋は人知れない夢のようで、愛は退屈なほどおだやかで、壮大な絶望はそれ自体がはげしく瞬いて、そして清らかで、誠実だ。いつもこの心の藪の奥にかくれて世界をみているつもりだったから、わすれものをすることも、お腹が痛むことも、いやな予感がすることも、こわくてたまらなかった、今死ぬことよりもきっと。自分の人生の、そのすべてに意味がなく、無価値だと感じるとき、もうだれの手もそこまでとどくことはない。息つぎのつづきを待たず駆け出すひと、角を何度も曲がるうちに陽はしずみ、おまえは醜いと告げられるたびに肺が焼け、やがて石のようにかたくなった言葉がその胸を食いやぶろうとあばれだす。目を閉じてどうだっていいことをおもいだすの、あなたの頬の産毛、ゆれる黄金の稲穂、わたしを救済した一篇の詩。うつくしさのことは、もうとうにわからなくなっている、ただ孤独であるわたしは、きっとだれよりもうつくしく踊れるだろう、ただあなたの心がうつくしいから、あなたのかたちもうつくしいと感じる。「あさ起きてこの顔になっていたら、あなただってきっと死にたくなるよ」そう言って笑いも泣きもしなかった人のことをおもいだす、そしてこの映画の差し出した魂を、あの人は受け取ることができたのではないかとおもう。おなじ風に吹かれているのにこんなにもとおい、わたしは裸で、あなたは毛布にくるまれ、互いにからだの傷の理由すら知らない。泣いているあなたを抱きしめてあげたいのか、ただわたしが抱きしめられてねむりたいだけなのか、いつもどうしてもわからない。わからないまま、からだを任すくらいならば、一生孤独でいたい。死ぬまでそうあれたらいいのに
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