シズヲ

少年と犬のシズヲのレビュー・感想・評価

少年と犬(1975年製作の映画)
4.3
この世が終わり、犬が喋りだす!なんでや。第四次世界大戦を経て荒廃した世界で、女を求める少年と喋る犬が彷徨う。『北斗の拳』の元ネタとなった『マッドマックス』よりも更に先を行くポストアポカリプス映画。監督と脚本がペキンパー作品常連のL・Q・ジョーンズなのがなんだか不思議で面白い。第三次世界大戦が何十年も続いたのに第四次世界大戦が「ミサイルぶっ放して数日で終わった」で片付けられてるのが毒に満ちてて清々しい。果てしない荒野の絵面や原始的な生存活動に勤しむゴロツキ達、また生存者同士のコミュニティーなど、後年の作品にも近いイメージが多々見受けられる。そんでコミュニティーの娯楽が古のポルノ映画上映会なのがなんかすき。

色々あるけど、この映画の魅力は何より少年と犬の変なコンビ関係にある。女とヤることしか考えていないヴィック少年には苦笑いしてしまうが、彼を冷静に窘めつつ掛け合いをするブラッドの存在が絶妙な味を醸し出している。妙に含蓄のある冷静な台詞回しと渋い吹き替えが、犬の飄々とした演技(?)も相まっていちいち憎めない。なんで喋るのかも理屈不明なのがフフってなる。この主演二人(?)のアンサンブルにこそ後年のポストアポカリプスにはない奇妙なユーモアとシュールさがあって、見ててやけに微笑ましい。言ってしまえばこいつらが絡んでるだけでも何か楽しい。そして荒廃した世界に少年と犬が佇んでいるだけで絵になるのも良い。

基本的には退廃的近未来が舞台となるが、中盤からは突如としてディストピアが食い込んでくるので面食らう。世紀末世界そのものが新時代の文明による監視対象だったという構図が面白い。住民達の白塗り顔や薄暗い地下世界の絵面、ブラックさに溢れたプロパガンダ的放送など、地上とは別ベクトルのインパクトがある。野蛮な青年が極めて戯画的な文明社会の暗黒に食い潰される様には『時計じかけのオレンジ』のような味わいがある。強制搾精マシーンと複数名の花嫁はやけに恐ろしい。地上も地下もそこまで深く掘り下げれている訳ではないけど、戯画的かつ対照的な近未来の描写としては寧ろ簡潔で分かりやすい。

本作は衝撃のラストらしいが、自分は見てて「まさかこのずっこい女と二人で生きるのか???ブラッドを差し置いて???そんなことないよな???」とめちゃめちゃソワソワしてたので、寧ろ予想斜め上のカタルシスで笑ってしまった。実際良いキャラしてたブラッドが生きてくれる方が数倍嬉しいのでしみじみしてしまう。中盤からはブラッドの出番がないので面白さが削れる節もあるけど、結局オチで大体取り戻してしまうので凄い。
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