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不貞の女のJeffreyのレビュー・感想・評価

不貞の女(1968年製作の映画)
4.0
「不貞の女」

冒頭、平凡なブルジョア一家の戯れ。陽光が差し、息子、夫とその母が庭に居る。間違い電話、疑念、浮気、私立探偵、撲殺、死体遺棄、トラブル、憤怒と嫉妬。今、金持ちを襲う悲劇が映される…本作は緊密で制御されたシャブロル演出が堪能できる傑作スリラーとして名高い本作をこの度、DVDにて初鑑賞したが素晴らしかった。本作は監督自身がオリジナル脚本を担当した1969年発表の映画で、数少ない登場人物とシンプルなストーリーがミニマルな演出を映し出し、極力削ぎ落とされたセリフと控えめな俳優の演技が見所である。

前作の「女鹿」に引き続き、ブルジョワの人にフォーカスをした作品で、本作の場合は平凡なブルジョア一家の日常を冷ややかに見つめている。そこに様々な不安定要素がじわじわと明るみにされていく展開と高度なサスペンス描写に加え繊細な心理描写も取り入れた見事な作品である。どうやらこの作品は数多くの批評家によって監督の最高傑作の1本とされているようだが、監督自身も最大の自信作と自負しているようだ。

この作品はいわゆる"エレーヌもの"とされており、「悪意の眼」から始まるトータル5本がヒロインの名前で統一されている関連映画な事は周知の通りである。このエレーヌと言う名前の由来は監督曰く、私が最も好きな名前であり、スパルタ王メネラーオスの妻で絶世の美女ヘレネーに由来するとのことである。シャブロル作品は似た名前をよく使っている。

さて、物語は保険会社の重役シャルルは、妻エレーヌや一人息子ミシェルとともに平凡で幸福な毎日を過ごしている。ところがある日、シャルルは自宅でエレーヌが不審な電話に対応しているのを偶然目撃してしまう。やがて妻の不貞に対する疑念を深めたシャルルは私立探偵を雇い、エレーヌの浮気相手が作家のヴィクトールであることを調べあげる。それからシャルルは相手の家を訪れ対面することになる。最初は平静を装うも努力をするも、次第に嫉妬と憤怒に駆られた彼は衝動的にその男を撲殺してしまうのであった…。

本作は、冒頭に庭で写真を見ながら会話をする妻と夫の母の2人の姿がある。そう、平凡なブルジョワ一家の姿が写し出される。そこに息子が駆け寄り、旦那が来て物語が始まる。夫は母を車まで見送る。母は車に乗り去っていく。一方奥さんは誰かと電話をしていたようで、とっさに間違い電話と口にする。続いて、親子のディナーの場面に変わり、夫が愛しているかと妻に言う。妻はもちろんと答える。

息子は絵本を持ってもう寝るといい部屋へ行く。家政婦が食事の後片付けをしに来る。夫婦はリビングのソファーに移動し、テレビを見ながら会話をする。カットは変わり、夫婦の寝室へカメラは移動する。夫はベッドの上で本を読み、妻は化粧室で足にマニキュアのようなものを塗っている。夫は不意に立ち上がりレコードを流す。妻がベッドに入り、暑くない?窓を開けましょうと言い、彼女は窓を開ける。

翌朝、妻を車の助手席に乗せ夫は職場に向かう(途中で妻は降りる)。夫の名前はシャルル、妻の名前はエレーヌである。シャルルは仕事の途中にとあるレストランに行き、電話をかける。続いて、職場にエレーヌがやってきて、2人はウイスキーを飲む。カットは変わり、息子のミシェルと夫婦のピクニックの描写が写し出される(ピクニックといっても自分の豪邸の庭で行われている)。そこでエレーヌは選挙についての本を息子に聞かせている。夫は妻にキングクラブに行こうと言う。

続いて、キングクラブと言うレストランのようなバーのような場面に変わる。そこには夫婦の知り合いも多くいてみんなで食事をしながら楽しむ。シャルルはエレーヌの姿がないのに気づきいて周りの友人らに妻の姿を見かけたかと聞く。だがソファーに妻は座っていた。2人は立ち上がり踊る。そして楽しい一時も終わり解散する。カットが変わり、自宅へ帰宅すると息子が起きていて両親は驚く。2人は明日学校なのだから早く寝なさいと言う息子を寝かしつける。


続いて、シャルルがエレーヌに浮気の兆候があると思い、知り合いの私立探偵に妻を調べさせる。どうやら浮気の証拠を突き止めたいようで、その探偵とカフェテリアで会話をする。そうした中、不穏な空気と絶妙な音楽でサスペンスフルな物語が徐々に佳境に向かっていく。翌日、妻が浮気をしている事が本格的に発覚したことを知ったシャルルは、浮気相手の愛人の家にやってくる。そしてエレーナの夫であることを伝えると愛人のペガラは驚く。微妙な空気感の中、彼はシャルルを家に案内する。そして寝室で巨大なライターを見つけるとシャルルは衝動的に彼を小像で殴り殺してしまう。

そしてここから指紋や血痕を拭き取りシーツに包んだ死体を車のトランクに隠して彼は出発する…と簡単に説明するとこんな感じで、ザ・シンプルに三角関係を映している作品だ。夫、妻、愛人の物語が淡々と写し出されていて、難しいものは特になく、極めてシンプルさを強調している。時には喜劇に、時には悲劇的に描かれている。後に夫が探偵から財産を持っている作家の男と密会していることを知らされるシャルルの憤怒と嫉妬が物語を恐ろしい展開へと導く。

いゃ〜、面白い。既に妻が浮気していることを知った夫が妻に愛想振りまく自分の豪邸の中のシーンや作家の浮気相手の男の家に行って、エレーヌの夫ですと答えた瞬間に作家が驚く表情など笑える。何よりもその浮気相手の部屋を見て回ろうとして嫌な気分になって、とっさに撲殺してしまうと言うのも滑稽である。そりゃそうだよな、寝室に行ってあそこに結婚3年目で自分が妻に選んであげた大型のジッポの置物を違う男に与えていたのを見たらショックのあまり抑えていた憤怒が一気に炸裂してしまうだろう。

そしてとっさに起こった殺人を隠蔽するべくとっさに証拠隠しなどをアリバイ作りをする狼狽さもなかなか見ていて面白い。そしてこのような突発的な出来事に起こりうる第三者の邪魔が入ってくると言う王道な感じもあって良い。まぁあっけなくその危機は収まるのだが…。だが第二段階の危機が訪れて、まぁそれはここで言うと面白みがなくなるから伏せておくけどそっちの方が緊迫感がある。それに終わり方が何とも言えない…。

ところでこの作品を見ればわかることなのだが、この三角関係で全員が揃って画面に現れる事は一切ない。要するにそれぞれに分担されている。夫と妻のショットがあれば妻と愛人のショット、そして夫とその愛人のショットだけが映り込まれ、三角関係の一角のみが見えない状態になっている形式だ。その演出がなかなか面白いなとは思った。だが、冒頭の夫がやってきて妻が慌てて電話を切るシークエンスを見ると誰だって浮気をしているんじゃないかと思ってしまう。でもあるあるの話だろう。

所々にヒッチコックの作品を彷仏とさせるような場面があるが、果たして意識しているのだろうか…どの店がヒッチコックらしいかはここではあえて述べないでおきたい。映画の楽しみが半減してしまう。ヒントを言うなら愛人の部屋で夫のシャルルが行う行動などだ。この映画は面白いことに、ブルジョアの豪邸の中で半分くらい物語が進むのだが、何一つ焦る様子もなく、警察とも話をする夫や平然をキープする妻の姿などを見ていると、この夫婦は意思が強いなと思ってしまう。

余談だが、この作品は2002年にエイドリアン・ライン監督による「運命の女」としてアメリカでリメイクされているようだ。
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