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悪太郎伝 悪い星の下でものnetfilmsのレビュー・感想・評価

悪太郎伝 悪い星の下でも(1965年製作の映画)
3.7
 河原に松明の炎が煌々と灯る中、男子学生たちは野太い声で誇り高き校歌を歌う。早朝、いつものように牛乳配達に訪れた鈴木重吉(山内賢)は上級生たちにいじめられ、橋の上から自転車を落とされる。3人に囲まれボコボコにされるが、一度も抵抗らしい抵抗をしなかった。昭和初期、重吉は河内平野で生れ育った。貧しい農家で、酒と喧嘩軍鶏にうつつをぬかす父親重兵衛(多々良純)は子供の進学に消極的な典型的な田舎の父親で、重吉は父の反対を退けて第3高等学校に入るため、八尾中学へと進んだ。両親からの支援も満足に受けられない重吉は、学費のたしにと中川牧場で牛乳配達のアルバイトを始めたのだった。ある日、中学で重吉ら四年A組の全員が、風紀部委員に呼び出しをくった。その中でもA組の三島義夫(平田重四郎)は、夜若い女と一緒に村を歩いたという因縁を付けられ、ボコボコにされる制裁を受けた。風紀委員の大岡(野呂圭介)が、三島の従妹の女学生・種子(野川由美子)に横恋慕した腹いせに三島を苦しめたと知ると、翌日重吉は大岡に剣道の試合を申し込み、みんなが見ている前でで大岡に恥をかかせた。

 『悪太郎』の冠が付いているため、その続編だと思われがちだが、『サスペリア』と『サスペリア2』のようにに今作は『悪太郎』とはまったく関係がない。日活お馴染みの山内賢=和泉雅子コンビの作品でもあるが、和泉雅子との淡い恋はほとんど描かれず、ここでは三島の従妹の女学生の種子を演じた野川由美子が妖艶なファム・ファタールな雰囲気を巻き散らしながら、重吉を肉体で誘惑する。『肉体の門』や『春婦傳』で売春婦や慰安婦を演じた野川由美子が女学生というのも何とも妙な気もするが、『悪太郎』では中学生と芸者遊びをしながら、運命の恋を夢想する純朴な青年だったがこちらは恋愛に対してどこまでも奥手だが、正義感だけは人一倍の青年の恋を描く。これは「悪太郎」ではなく、「善太郎」か「良太郎」ではないかと思うものの、万能感をこじらせ、たった1人でヤクザを一網打尽にしてしまう青年の荒唐無稽さは清順で繰り返し描かれた重要なモチーフとも言える。それ以上に力でねじ伏せることの無力感に青春の無常感が加わり、感傷的になるばかりの主人公を襲う。水辺のイメージからいきなり混浴へと誘う野川由美子の自由奔放さとは対照的な家族の因習に縛られた封建的な女性としての和泉雅子の慎ましさ。結局はそのどちらも選ぶことさえ出来ぬまま、悪太郎は「ここではないどこか」へと歩を進める。
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