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風と共に散るのKuutaのレビュー・感想・評価

風と共に散る(1956年製作の映画)
4.3
とにかく冒頭が素晴らしい。とんでもない速さの車、美しい屋敷に不自然に吹き込む風と落ち葉が、迫り来る死を連想させる。窓枠を使ったフレーム内フレームの強調、流れるようなカメラワーク…。ある男が銃に撃たれて死ぬと、風は日めくりカレンダーを巻き戻し、映画をあっという間に過去に引っ張っていく。

石油王の子供であるマリリーとカイルは過去に流れる「川」に執着しており、金持ちになる前に親しんだ安酒に溺れ、自由に生きることができない。子供の頃のピクニックを再現するマリリーがヤバイ。消せない過去が現在を規定し続けている、という息苦しい話だが、ラストのある決断が八方塞がりのお話を前に進める。

(「戻れないところまで来てしまったんだ」という説得に応じて引き返すのを諦めたり、「あと1時間だけ付き合ってくれ」と言われて結局懐柔されたりと、序盤のルーシーの何をやっても抜け出せない状況設定が辛い)

・打てない銃を隠し持つカイルの不完全な男性性。最後までその砦に囲われたマリリーは、地味な服に身を包み、父権の象徴たる石油の採掘塔(どう見ても男性のそれ)を握りしめるしかない。石油王=アメリカンドリームの体現者こそが煉獄に囚われているというサークらしい皮肉。この家に取り込まれかけていたミッチとルーシーが、屋敷を脱出する場面で映画は終わる。

(カイルが性的に不能だと診断された後、白馬のおもちゃに跨がる少年の前を通る。さらに酷いことに、次のシーンでは馬と対面するような位置に妹のマリリーが座り、脚を大きく広げている。メロドラマの体裁を取りつつエグい事をやっている)

・ミッチは親友のカイルを影から支えてきた。彼の父は「理想的な西部の時代」の象徴だとセリフでも明言されており、石油によって全土が文明化(東部化)しフロンティアの消滅したアメリカに於いて、居場所を無くした西部のガンマンの精神をミッチは引き継いでいる。

逆に言えば、カイルは実権をミッチに握られており、彼は劣等感に苛まれている。序盤はカイルの悩みがルーシーを口説く為の嘘のように思えるが、実は凄く切実な問題だった事が分かってくる。ミッチとルーシー=庶民がカイルとマリリー=金持ちに勝つ話のように見えて、金持ち側の地獄を描く方向に内容がスライドしていく。

・サーク特有の不自然に強調された色彩。人工的な赤と白がとても不吉で、それを鎮める青が対比的に差し込まれる。ルーシーが最初に案内されるホテルの薔薇や、コックピットで赤く染まるカイルの顔。マリリーは基本的に暖色が多く、父の死とクロスカッティングされるダンスシーンも、きっちりピンクの上着を羽織る。ただ、シーンによっては赤と青の混ざるチェックのシャツを着ており、彼女の二面性を示唆している。

・計算された絵作り。対面ではなく鏡によって表情を合わせる場面が頻発。ルーシーの不完全燃焼な恋心を示すように、彼女のバストショットでシーンが切れた後、彼女の心臓があった辺りにミッチの顔が来て別の場面を始める編集。86点。
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