豚肉丸

悪い子バビー/アブノーマルの豚肉丸のレビュー・感想・評価

4.8
35年間母に監禁されていた男が外の世界に出るお話

大傑作。前々から凄いとは聞いていたもののどうして今リバイバル上映?と思っていたのだが、確かに納得。露悪的なエログロ映画の雰囲気を纏いながらも内容は一貫した人間讃歌であり、現代社会にも通じる社会問題も投げかけられる。同時に音楽映画としても最高と、多くの内容が詰め込まれながらも渋滞感を感じさせず、物語の構成も綺麗に纏まっていて滅茶苦茶面白い。

思えば、映画に登場するキャラクターは全員社会的な普通から外れている。その象徴として主人公が設定されているのだが、バンドや障害者施設の人々など、主人公と関係を持つ人々は社会から外された人々が多い。主人公は健常者が支配する社会から迫害されるが、その一方でそれらマイノリティの人々が作り上げた社会が受け入れ先となる。
すると、この映画の作り自体が物語上におけるマイノリティの扱いと同一であることに気がつく。異常な男を異常に描くも、決して否定せず、その異常性を男が活躍する能力として機能させるのだ。
『クリーン、シェーブン』と同じように、公開当時は異常性だけに注目されてエログロだけの印象が付いてしまった映画を、マイノリティの表象が注目されるようになった現代の価値観を取り入れることによって映画に新たな深みが生まれる。だから本作が再上映されたのか、と納得。

バンドの演奏シーンのカタルシス。常に他人の言葉を模倣(=取り入れ)してきた男が、それまでに発された言葉を用いることで音楽を作り上げる。反復と再構築。映画のショットもまた、反復と再構築を取り入れており、以前提示されたショットを再び提示させることで主人公の成長、変化を表す演出が本当に上手い。

年齢の都合で映画館の日本語字幕で鑑賞できなかったので宗教に関するの対話の部分を理解出来なかったのが悔しいものの、 それにしても凄すぎて圧倒された。アブノーマルで美しい人間讃歌。面白かった!
豚肉丸

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