TaiRa

リリスのTaiRaのレビュー・感想・評価

リリス(1964年製作の映画)
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これが遺作のロバート・ロッセンって凄い監督だったんだなぁ、と監督作初見ながら思う。

戦争帰りのウォーレン・ベイティが精神病院の職員として働く話。導入部から只事ならぬ空気感が醸し出されている。最小限の台詞だけで、主人公の置かれた状況や心情、決心などを手際良く見せて行く無駄のない演出。ベイティも芝居めっちゃ上手い。ジーン・セバーグが登場するまで丁寧に主人公と病院の描写を重ねていて溜めが効く。その溜めに溜めたセバーグの初登場は案外あっさりしてるのも洒落ている。台詞を極端に廃した視線劇でもあり、そこから生まれる静寂がただならぬ空気感を作り上げる。台詞も劇伴もない無音の場面が結構多い。滝や水面の禍々しさと美しさが出色。湖に浸かるセバーグなんかは諸に溝口/宮川の画っぽい。ベイティが人生から逃避する様にセバーグに魅了されて行く過程もヒリヒリとした怖さがある。交流を通じて彼女が「正常」に見えて来ても、やはり狂気の人だと分からせる部分は、何とも言えない徒労感が滲む。ベイティのSAN値が段々削られて行く芝居は凄いし、セバーグの狂気に揺れる芝居も凄い。役者で言えばブレイク前のピーター・フォンダが演じる青年も不憫で印象的。唯一饒舌であり、最も重要な言葉を吐く人物。これがデビュー作のジーン・ハックマンは、堂々とガラの悪い男をやっていて流石。ワンシーンの出演だけでも厭な後味を残して行く演技力は確認出来る。当時のベイティは『ミッキー・ワン』とかこれとか、不思議な映画に出ていて変わった役者。ヌーヴェルヴァーグのヒロインとニューシネマのスターたちが交差していた、中継地点の様な作品になっているのも面白い。
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