井出

リリスの井出のネタバレレビュー・内容・結末

リリス(1964年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

水の徹底は凄かった。彼女の世界は常に水の中にあり、水に映る彼女はより魅力的に見えた。基本的に頻繁に水をのむ。生水でもなんのためらいもなく飲むし、水に映る自分にキスもする。基本水ばかり見ている。自分の世界に引き込もうと弟や、好意を抱かれてる男を水の中へ飛び込ませようとする。主人公も自転車にのって、水に映り込んで以降、彼女の世界にとらわれていく。そもそも彼女に好意を抱いたのは母親に似ていて、精神もふつうではないという遺伝みたいなものを受け継いでいたようにも思われる。彼は家でもスープしかのまないし、食べることはなかった。食べることが正気を保つという、戦争世代の監督の思想も見えるし、途中一般の家庭を訪れて夫がマフィンをばくばくくうことで強調されていた。そこで会話が成立していないことも、彼が水の世界にとらわれた決定的瞬間だった。雨の使い方でもそれは徹底されていて、彼は嵐の夜から大きな転換をせまられることになる。彼が狂うとき、やはり雨が降った。男が救急車に運ばれるときも雨が降っていて、それは男が死とともに水の世界に入っていくということだろうか。とにかくこのシーンにはいろんな違和感があり、強調されていた。鉄格子と蜘蛛の巣をかけている感じもよく使われていて、彼はここに来たときから蜘蛛の巣にかかっていたことがわかるし、その後女に捕食されるということだった。蜘蛛の巣話も出てきたように、彼らはなにかのきっかけで調和や秩序を壊し、アシンメトリ、混沌に向かっていく。精神病院の廊下はショック集団と同様、人々が違和感ある配置がなされた。違和感ある構図がカオスであり、狂気のアシンメトリを表しているようだった。
セリフは個人的には、男が絵の具箱をわたし、反応をきくときのがよかった。喜びという根源的なエネルギーが詩的に表現されていた。彼女の愛の説明も狂っていたが的を射ているようでよかった。天才も狂人も紙一重だった。
井出

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