猫脳髄

メシア・オブ・ザ・デッドの猫脳髄のレビュー・感想・評価

メシア・オブ・ザ・デッド(1973年製作の映画)
3.6
ジョージ・A・ロメロの初期2作品間(「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」(1968)から「ゾンビ」(1978)まで)の10年を勝手に「ゾン間期」と呼ぶことにするが、本作はそのゾンビ映画転換期に製作された変わり種の伝奇ホラー。

平板なカメラワークや薄暗い照明、大根ぞろいの役者陣と1970年代のインディペンデント作品に見られる粗さに序盤こそ不安になるが、進行するにつれ、なかなか巧みなシナリオと演出に引き込まれる。監督・脚本のウィラード・ハイク&グロリア・カッツ夫妻は後にハリウッド大作(「アメリカン・グラフィティ」「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」「ハワード・ザ・ダック 暗黒魔王の陰謀」)の脚本・監督をつとめた。

画家の父親を訪ねて、不気味な伝承が残る海辺の小さな街を訪れたヒロインが巻き込まれる恐怖という筋書き。H.P.ラヴクラフト作品のような伝奇調であり、後のゲイリー・シャーマン「ゾンゲリア」(1981)や、同時代ではジョン・D・ハンコック「呪われたジェシカ」(1971)、もう少しさかのぼるとハーク・ハーヴェイ「恐怖の足跡」(1962)などとの類似性が指摘できる。

本作に登場するのは、厳密にはリビング・デッドと言うよりはフィロソフィカル・ゾンビのような存在だが、犠牲者がスーパーマーケットで襲われるなど、ロメロに先行する描写が伺える。また、まばらな映画館の客席でいつの間にかゾンビに囲まれていたり、すりガラス越しにベタベタとゾンビどもが張りついていたりと、演出が見事である。ワーグナー好きのアルビノ黒人と言う特異なキャラクターを登場させる趣味も良い。

役者は大根ぞろい(※)だし、低予算のためかゴア描写も変なカットバックで誤魔化していたりと瑕疵も多いが、あだやおろそかにできない佳作。

※唯一、ネジが飛んだホームレスを演じたエリシャ・クック・ジュニアだけ怪気炎をあげている
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