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エリート・スクワッドの一人旅のレビュー・感想・評価

エリート・スクワッド(2007年製作の映画)
5.0
第58回ベルリン国際映画祭金熊賞。
ジョゼ・パヂーリャ監督作。

リオ・デ・ジャネイロを舞台に、スラム街ファヴェーラに巣食うギャング撲滅のため死力を尽くす特殊警察作戦大隊“BOPE”の姿を描いたサスペンス。

リオのファヴェーラで巻き起こる凄惨な麻薬抗争を描いた傑作『シティ・オブ・ゴッド』(2002)と同系譜のブラジル映画。ただ、ギャング同士の抗争を描いた『シティ・オブ・ゴッド』とは異なり、本作はファヴェーラを支配するギャングに武力で対処する特殊部隊BOPEのベテラン隊長と正義感に燃える新米警官の視点で、麻薬と暴力が蔓延するファヴェーラの実態とギャングと癒着した警察組織内部の腐敗を暴き出す。

テーマは法と正義。マチアスは新米警官でありながら、その事実を隠してロースクールで法を学ぶ。いずれは弁護士になり法で人々を守りたいと考えるマチアスだが、警察内部の腐敗を目撃したことでBOPEへの入隊を決意する。BOPEのやり方はまさしく“超法規”的。ギャングさながらの残虐な拷問は当たり前で、ギャング逮捕・殺害のためなら手段を選ばない。何よりも法を重んじていたはずのマチアスも次第に法を無視したBOPEの独善的なやり方に染まっていく。
大学で誰よりも理論的だった前半のマチアスの姿と、脅しと暴力と権力を武器に人々をコントロールしていく後半の姿の強烈な対比。凶悪なギャングが巣食うファヴェーラで生き残るためには、そこに入り込む者自身が変わらざるをえない現実を突きつける。絶対的な悪に対処するために歪められていく正義。だが、逆に言えば、超法規的やり方でないと悪を撲滅できないという側面がある。

現場で役に立たない法に従うべきか、それともBOPEの独善的な正義に従うべきか。最終的に決断を下すマチアスの姿が凄烈に印象的で、リオ・デ・ジャネイロという南米を代表する世界都市が抱える深く複雑な闇を浮き彫りにする。

入り組んだ迷路のようなファヴェーラで展開される熾烈な銃撃戦のシーン(アクション要素)は意外と少ない。どちらかと言えばアクションより、法と正義の狭間で揺れる新米警官の葛藤や、BOPEからの引退を望む一方で強硬的姿勢で部隊を率いるBOPE隊長の苦悩や後悔といった人間ドラマを、正義不在の警察組織とファヴェーラの過酷な現実の中に描くことを重視した作劇。腐敗し切った警察組織が頼りにならない中、超法規的に独自の制裁を下すBOPEの姿が真に迫る。
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