田舎町のダイナーの入り口でジョン・フィネガン（ジョン・C・ライリー）は憔悴しきった様子でうずくまる。青いタンクローリーが画面を横切ると、しゃがみ込む男にゆっくりとカメラは近づいていき、初老の男シドニー・ブラウン（フィリップ・ベイカー・ホール）がしゃがみ込む男をダイナーの中へ招き入れる。初老の男は、若い男の話を親身になって聞き、コーヒーだけではなくタバコまでご馳走する。ジョンは浮かない表情の原因を聞かれると、母親の葬儀代を稼ぐために、ラスベガスでブラック・ジャックに全財産を投じるが、擦られてしまったのだと告白する。その話を聞いた初老の男は、彼に50ドルものお金を貸し、もう一度ラスベガスへへ行かないかと誘う。ジョンは初老の男の親切心にどこか裏があるのではないかと勘繰る。自分は空手の有段者だから、手を出してきたらボコボコにしてやるぞと威嚇するが、その様子に呆れ果てた顔をしながら、シドニーはジョンの機嫌を取るのである。果たしてこの男のボランティア精神の真意はいったい何なのか？映画はその答えを一切明示しないまま、2人を車に乗せる。最初は後部座席から運転する初老の男の様子を伺う若い男だったが、やがて助手席に座り、自分の話をあることないこと饒舌に話しかける始末。母親が死に、天涯孤独になった男には何の蓄えもない。彼は寂しさから、先ほど会ったばかりの初老の男に堰を切ったように自分の身の上話を話す。

　ポール・トーマス・アンダーソンの映画において、しばしば偽装された父子関係が形成される。若い男は頭が弱く、情緒不安定で、逆に年老いた男は人生経験豊富で聡明なジェントルマンで、熟練したカリスマ的なオーラを放っている。ジョンは当初、シドニーの明らかに偽善的な献身を疑いながらも、彼に指南されたペテンをやり、大金を稼ぐことであっさりと懐柔される。2年後、シドニーの知恵でプロのギャンブラーに仕立て上げられたジョンの元に、1人の女が現れる。シドニーによってクレメンタイン（グウィネス・パルトロー）と名付けられたその女は、明らかに薄幸そうでパッとしない。アイラインは黒く滲み、アイシャドーはまるでパンダのようなメイクで人生に疲れたような表情を見せる。女は夜の街の持つ独特の磁場に精力を奪われ、夢を見る余裕もない。そんな薄幸のクレメンタインに対してもシドニーは、ジョンと同じようにある種の慈愛を持って接する。彼女の出勤終わりに裏口に待ち構え、ジョンと同じようにダイナーで彼女の身の上話を聞いてやる。そして親切にも自分の部屋に招き入れ、自分が寝るはずのベッドを提供する。夜の街で身体を売って暮らすクレメンタインはこのオヤジが売春目的なのだと覚悟するが、シドニーはその態度に苛立ちを隠せない。まるでマーティン・スコシージの『ハスラー2』のような初老の男と若いカップルの三角関係だが、ジョンもクレメンタインも『ハスラー2』のような並外れた才能は持っていないいたって凡庸な若者たちである。

　やがてシドニー・ブラウンの真の目的が明らかになる時、映画は途端にフィルム・ノワールへと舵を切る。ネオン輝くラスヴェガスの夜景、湿り気を帯びたコンクリート、緊迫した三角関係は安モーテルの2階から階段を降り、ジョンの停めてある車の場所まで回り込むカメラの動線は初期衝動に溢れていて何度観ても素晴らしい。ホテルの椅子に腰掛け、バーボン片手に結婚式のVHS映像を眺めるシドニー・ブラウンの様子には擬似父子としての強い贖罪の念が滲む。マズイ状況「Fucked Up Situation」は彼らの順調に見えた三角関係に亀裂を及ぼす。ジョンの運転する車でうとうと居眠りするクレメンタイン、部屋で呆然とした表情を見せるシドニー・ブラウン、そしてハードエイトの狂乱に賭けるジミー（サミュエル・Ｌ・ジャクソン）の三者三様のクロス・カッティングの素晴らしさは今作が処女作となったポール・トーマス・アンダーソンの才能の片鱗を見せつける。思えば今作においてシドニー・ブラウンのツキの転換点となるのは、カメオ出演したフィリップ・シーモア・ホフマンの登場した名場面である。ジョンとの電話口で伝えた「君に我が子同然の愛を」の擬似父子を現す象徴的な言葉はこの後も彼のフィルモグラフィを決定付けながら、21世紀の『ザ・マスター』へ見事に受け継がれて行く。

PTA監督のデビュー作とは思えない程冒頭ダイナーのショットから引き込まれる。後の“マグノリア”や“ファントムスレッド”を感じさせるシーンも沢山でファンには堪らない。カジノの中をシドニー（フィリップ・ベイカー・ホール）が歩くのを追っていくワンカットだけで、あぁこれだよこれって気分になる。

PTA然り、タランティーノやノーラン、ウェス・アンダーソンなど、現在の映画界の大御所達はデビュー作から天才的なクオリティなんだよねやっぱ。PTAは当時26歳だよ、本当にやべぇよな…。

• #Nevada(USA)

近所のGEOにないから遠くのTSUTAYAまで借りに行ったよシリーズその3

監督ポール・トーマス・アンダーソンが好きだ！
マグノリアが1番好きで、ブギーナイツもぶっ飛んでたし、最新作ファントム・スレッドも完敗だ。ザ・マスターは難解で、パンチドランク・ラブは普通に楽しめた。

さぁ、そんなPTA初監督作！そりゃGEOになんてねーよ！

ハード・エイトとはサイコロの4のゾロ目。

1人の老ギャンブラーの物語。

ラスベガスのカジノで一文無しとなったジョン（ジョン・C・ライリー）はダイナーの外で座り込んでいた。そこに現れたシドニーと名乗る老人（フィリップ・ベイカー・ホール）。シドニーはジョンに150ドルを貸し、ギャンブルの手ほどきをする。2年後、ジョンは立派なギャンブラーとして成功していた。

主要人物はジョン、シドニーに加えて、ウェイトレスのクレメンタイン（グウィネス・パルトロー）とジョンの連れであるジミー（サミュエル・L・ジャクソン）の4人。

ほぼこの4人だけで展開するストーリー。キャストはPTA作品ではお馴染みのメンツ。フィリップ・シーモア・ホフマンも、全く本編に関わらないチョイ役でありながらインパクトは上等！流石！大好き！

紳士で面倒見が良くてお金持ちでやる時はやるシドニーが渋い！カッコいい！

しかし、総じて地味で中盤までは大きな動きがないので、万人には勧められない。

とは言え、幼稚でいつまでも手がかかるジョンと泣きじゃくってパンダメイクのクレメンタインを手助けするシドニーの父性。その擬似的父子関係、師弟関係は、いずれザ・マスターに継承されていくものだし、回想シーンの挿入の仕方なんかはマグノリアに通じるものがある。

地味でも惹きつける。
それはカメラワークの妙か、脚本の為せる技か、PTA好きなら何故か魅入ってしまう力がある。

誕生日に地震が来て、翌日に熱が出て会社休んで、未読メールが100件もあるから微熱でも出勤して…僕の人生もなかなか地味です。

• #2018akirunaway
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