クロスケ

動くな、死ね、甦れ!のクロスケのレビュー・感想・評価

動くな、死ね、甦れ!(1989年製作の映画)
5.0
【再鑑賞】
初めて観たのは、10年以上も前のことですが、その日のことは今でも覚えています。
場所は今年惜しまれつつ閉館した、京都みなみ会館。夜遅くのレイトショーでした。しかもその日はとてもとても寒く、時折雪がちらついておりました。
京都みなみ会館は京都駅の南、東寺の直ぐそばにあり、一方当時の私はと言えば、左京区の北、宝ヶ池界隈に居を構えておりました。
つまり、決して近くはない距離関係にあり、四条河原町や木屋町あたりの繁華街に出掛けていくような気軽さには欠けていたのです。
ものぐさな私のことです。そんなマイナス条件が揃えば、心が折れても不思議ではないのですが、この時ばかりは「観たい」という熱意の方が上回っていました。
凍てつくような寒さの中、すっかり暗くなった戸外へくり出し、人影も疎らな市営地下鉄に揺られて目的地を目指しました。

そして…劇場に辿り着き、冷え切った身体をコーヒーで暖めながら観た、カネフスキーの鮮烈な処女作は、難儀して観に来て良かったと心の底から思えた大傑作でした。

戦後間もない、旧ソ連の極東の町スーチャン。貧しい炭鉱の町には、日本兵が抑留し、傷痍軍人の姿も見受けられる。
ぬかるんだ地面をけたたましい子ども達の群れが踏み荒らし、大人たちが罵声をあげながら画面を横切っていく。
狂人と化した男が道端の泥を食らい、脱走した若い女囚が薄汚れた陰部を晒す。

この混沌の極みのような映画にあって、何よりも素晴らしいのは、主人公ワレルカのその顔です。

お茶を売るガーリヤの邪魔をする悪戯っぽい顔。転覆する機関車の行方を呆然と眺める顔。ガーリヤに寄り添って草むらの陰に身をすくめる怯えた顔。強盗に入った宝石店の主人の死体をじっと見つめる顔…。そのどれもが画面を震わせるほどの鮮烈な表情に収まっています。

背後を追いかけてくる不審者の追跡を振り切り、母親と共に夜霧に烟った暗い道を歩くシーンで、ワレルカの顔を仄かな光が照らします。その次のカットでその光源の正体が、丘の上で焼身自殺をする日本兵の肉体を包み込む炎であることが明かされるわけですが、その光を受けたワレルカの白い顔と一点を見つめるその眼差しが美しい。

その表情には恐怖と不安だけではない、この世界の真実に気付いたかのような達観した鋭さが迸っており、背筋が震える感動を覚えました。
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