むさじー

アンフィニッシュ・ライフのむさじーのレビュー・感想・評価

アンフィニッシュ・ライフ(2005年製作の映画)
3.8
<人を赦し、自らの傷を癒す>

人は多かれ少なかれ何か心に傷を抱えていて、その傷を自分のせい、あいつのせいと決めつけて自責や憎悪の感情を潜ませているもの。本作の三人もそんな負の感情を抱いて出会い、老いた牧場主アイナーの気持ちは揺れていた。息子の死の原因が嫁にあるのでなく、友人の障害も自分の不注意によるものではなく、それは事故なのだということをきっと理解していたものと思う。それでも、他人を憎むことに心の拠り所を求め、過去の失敗を嘆き続け逃れられないでいた。
そして友に教えられた。自分に危害を加えた熊でさえ自由になる権利があって、許すべき存在なのだと。熊の解放がきっかけで自らの傷に向き合い、相手の痛みや苦しみに思いを馳せて徐々に、相手を赦し赦した自分自身を受け入れていく。
映画は関係が修復されるまでの心の動きと変化を丁寧に追って、淡々とした穏やかな時間の中に描いていく。多くを語らず、多くを見せない演出はいつものハルストレム流なのだが、この辺を盛り上がりに欠け冗長と感じる向きはあるかも知れない。
それでも、少女と熊の演出が際立っていた。従来から子どもの演出には定評のある監督だが、純粋無垢でもない少し訳知りの普通の少女が、普通の大人たちとの関わりを通して人としての生き方を学び成長していく、そんな姿には惹きつけるものがあった。グリズリーもなかなかの迫力だった。
大物キャストを揃えながら日本では劇場未公開の映画。もったいない気がする。
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