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殺し屋とセールスマンのFilmomoのレビュー・感想・評価

殺し屋とセールスマン(1973年製作の映画)
4.8
①ホテルの5階、証人を暗殺しようとする殺し屋(リノ・ヴァンチュラ)と、女房に逃げられ自殺しようとするセールスマン(ジャック・ブレル)が隣り合わせの部屋を借りる。殺しの準備中に、セールスマンが水道管に紐をかけて自殺未遂をする。そのおかげで水道管が破裂し、部屋は水浸し、隣の殺し屋の部屋まで漏れて来たために自殺未遂が発覚する。警察を呼ぼうとするホテルマンにリノ・ヴァンチュラが自分に任せろと言ってやめさせる。警察が来るとやっかいなことになるからだ。この騒動が起点となって、リノ・ヴァンチュラは、超がつくほどマヌケなジャック・ブレルに振り回される。そのプロセスを、およそ80分ほどテンポ良く辿ってゆく。②本作は舞台劇の映画化ということだが、脚本を担当したフランシス・ヴェベールはこの後ゲイのカップルが息子の結婚のために悪戦苦闘する『Mr.レディ Mr.マダム』(78)、同じくゲイで事務方の巡査が、マッチョ刑事とコンビを組んで連続ゲイ殺人事件の潜入捜査をする『パートナーズ』(82)、バカ人間を招待しては仲間うちで笑い物にする晩餐会『奇人たちの晩餐会』(88)、コンドーム会社のリストラに対抗するために、まじめで平凡な男が自らゲイと偽ったことで巻き起こる騒動『メルシィ!人生』(00)など、鋭い切り口で人間の面白さを描き出す傑作を数々世に送り出してきた人。本作の面白さは、ジャック・ブレルのギャグ的要素と、リノ・ヴァンチュラのシリアス的要素が絶妙にバランスを取っている点である。そして一番の貢献者はリノ・ヴァンチュラで、その存在感と重厚感ある台詞まわしが、ただのコメディ映画と一線を画している。③演出も無駄がない。オープニング、いきなり要人を狙った爆破未遂事件で、一体これから何が始まるのかという期待感を持たせ、ホテルでの自殺未遂、それも首吊り未遂騒ぎ、その後飛び降り未遂騒ぎと2度続き、部屋の最初のシーンの伏線を回収した後にリノ・ヴァンチュラに降りかかる悲劇、医者の勘違いから起こる更なる悲劇、と重層的連続的に物語が展開していく。結末の秀逸なオチまで淀まず、止まらず、散々な目に遭ったリノ・ヴァンチュラには悪いが大満足する傑作だった。
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