秀ポン

SOMEWHEREの秀ポンのレビュー・感想・評価

SOMEWHERE(2010年製作の映画)
3.4
終わり方があまりに的外れで面白かった。

──楽しそうじゃん。

スポーツカーが殺風景な荒野を何周もするファーストカット。
これは、なんでも持っているけど何も無く、どこにも行けないっていう主人公の満たされなさを象徴しているんだろう。良い描写だね。
と思いながら見始めた。

実際、最後まで見たらそんな感じの話ではあったんだけど(というかそういう話にしようとしてるんだろうなってのは伝わってきた)、しかし見ている間は「こいつ普通に楽しく生きてね?」と思っていた。
娘とずいぶん楽しそうに過ごしてんじゃん。

満たされてるはずなのに空虚だった日々が、娘が来たことで本当に満たされ、しかし娘が去ることで自分の空虚さをより強く思い知らされるっていう話なんだから、娘といるときに芯から楽しんでてもまあ良い。
でも主人公は映画の大半を娘と一緒にいるので、画面には芯から楽しんでる主人公ばかりが映ることになる。
そのくせ主人公は娘に対して真摯に向き合ったりとかはあんまりしてない。スケートの練習中に遊び相手とメッセージのやり取りしたり、娘が来る予定を忘れてその遊び相手を寝室に呼んでたり。

そんなんでも娘とお別れした後に泣き出していたので思わず笑ってしまった。お前調子のいいやつだな。

そもそも楽しそうにしていても実は満たされない、ということ自体
「楽しい生活に見えるかい?でも俺は空虚なのさ……」って悲しむことで気持ちよがってんなと思う。
やりたい放題やっといて、その上でその生活を自己否定して苦悩する“繊細な自分”に酔う気持ちよさまでも味わっている。贅沢だよね。

──爆笑ものの終わり方。

真っ直ぐ続く荒野の道で、車を乗り捨てて道の続きを自分の足で歩いていくっていう、ファーストカットの対になるような終わり方だけど、こいつ1週間もしたら絶対元の生活に戻ってるだろ。自分に何が欠けてるのか全く分かってないもん。
まじで大丈夫だよ。1週間もしたら今の感傷や決意なんて忘れて、行きずりの美女たちと楽しくよろしくやってるって。絶対。

前半のパーティーで、彼の目が、空気が読めないくらいに生真面目な駆け出しの俳優くんに向くことは決してなかった。部屋に呼んだポールダンサーの名前も(多分何度も呼んでいるのに)覚えていない。そこだろ。

他人に興味がないから世界が無価値に思えちゃうんだろ。
だから彼は最終的にとりあえず歩き始めたはいいけど、彼の行くその道の先には絶対に何もないと言い切れる。

まず他人の名前をちゃんと覚えるところからじゃん?
なんか人1人いない広大な大地を行こうとしてるけど、それ道間違ってますよ?と、そう言いたい。

──その他、細かな感想。

・嫌いな映画では決して無く、主人公の終わりっぷりが楽しい良い映画だった。別に主人公のことが嫌いとかもない。画面越しに見てる分には良いキャラしてる。

・自堕落セレブの生活ってこんななのか〜〜って感じでも楽しめた。

・スポーツカー特有の前トランク。

・娘がスケートを3年前に始めたことを把握していない。やっちまった。
でも「いつまであの頃のままでいると思ってんの?」って感じは親あるあるだよな。

・遊び相手と娘がバッティングしかけて慌てるシーンをはじめ、娘を前にやらかしかけるシーンは、こいつマジで生活が破綻してるんだなって感じがしてとても良かった。

・お前全然良くなかったよって言われた後に2人の身長差を調整するために主人公が足場に乗ってたのが映るのいいね。

・主人公の感じている気だるさを表現する為に必要な間だというのは承知の上で、100分切ってるとは思えないくらいテンポが悪いのがめちゃくちゃ嫌だった。
良い描写だと言った冒頭のスポーツカーぐるぐるシーンも5,6周は流石に回りすぎ。なんか気まずくなっちゃう。2,3周で良いだろ。
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