ヨシイコウタ

SOMEWHEREのヨシイコウタのレビュー・感想・評価

SOMEWHERE(2010年製作の映画)
3.8
なんとなくまた書いてみようかなという気になったので、一時的に再開してみます。

最初のシーン、主人公はひたすらぐるぐると周回を続ける。エンジンをふかす音が遠ざかっては近づいて、また遠ざかる。考えてみれば、この「円をなぞる」という運動は前進とは言えません。スタート地点から一歩踏み出せば、その瞬間からそれは「再びスタート地点へ戻る」ことを意味するわけで、動いているようで動いていないようなもの。どれだけ進んだところで、どれだけスピードを出したところで何も変わらない。監督はこのシーンについて「観客に席を立たせる時間を与えた」と言っていますが、それ以上に主人公の状況、また主人公が感じている虚無感みたいなものを表しているような気がしました。
このシーンが象徴的なものであることから、最後のシーンもそれと同じように象徴的なものなのではないかなという気がします。彼がどこに向かっているのかは分からないけれど、とにかく車を乗り捨てて、どこかへ向かって歩き出したということ。泣きじゃくる子どもの内なる叫びに、しっかり面と向かって「ごめんな」と言えないような臆病な主人公が、どんな形であれ円をなぞるのではなく前に進みだした、ということが大事なのかなと思いました。

それと特筆すべきは、もちろんクレオを演じているエル・ファニングでしょう。いくつかのレビューを見ると、最初の登場シーンの彼女を「天使のようだ」と形容している人が多いのですが、僕も全く同じように思いました。なので、たぶん彼女は天使なのでしょう。あるいは、天上を舞う天使たちは彼女のような姿をしているのでしょう。見た瞬間、そのあまりの美しさと透明感に稲妻に貫かれたような感じがしました。「美しい」ってほんとに素晴らしいことだなと改めて思いました。

確かにストーリーに起伏みたいなものはほとんどありませんが、それはそんなに大事なことではないんじゃないかなと僕は思います。それは必ず必要な要素ではないと思うし、現にこの作品はとても面白かった。ユーモアが散りばめられていてたまにくすっと笑えたりもしますし。観るときには、ぜひ映画に集中してそこにある世界に浸って欲しいです。