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見つめる女のemilyのレビュー・感想・評価

見つめる女(2004年製作の映画)
3.5
北イタリア、トリノ。窓越しに向かいのアパートに住むマッシモを見つめるヴァレリア。同時通訳の仕事をしてるヴァレリアは見つめる以外の場所でマッシモと遭遇することになる。ローマに旅立ったマッシモを追い列車に飛び乗る。そこでマッシモの恋人と出会い仕事を手伝うようになる。

閉鎖的に窓越しに向かいのアパートを映し、終始不穏な空気感を漂わせる。孤独な26歳の同時通訳の仕事をしているヴァレリア、マッシモの生活にかかわりつつ気が付かれない関係性に少しずつ不満を覚える。気づいて欲しいと思いつつ、気づかれたらどうしたらよいのかわからない。屈折した少女の心のままの矛盾を自分でもどうしてよいかわからず、誰かと深くかかわることに恐怖をもっている。
見つめていた存在が、彼の中年の恋人を介して徐々にマッシモの生活にヴァレリアという存在が認識され始める。
そうしてその見つめる存在が逆転したとき、恋の矢印が自分のほうを向き始めた時、恋愛モラトリアム中のヴァレリアがとる行動は逃げるのだ。

不気味な三角関係には、恋人の大人の余裕が漂っており、何もしらない彼女は無意識にヴァレリアとマッシモの距離を縮める手伝いをしてしまう。しかしその状況を利用することはない。ストーカー的な行動をとりつつも、そこから欲望がむき出しになることはないのだ。二人が出かけヴァレリアが一人恋人の家で校正をすることになる夜がある。しかしヴァレリアがそこで何をしてるかは映されない。あんなこともこんなことも観客は想像してしまうが、その時間は空白の時間として、二人の帰宅へシーンは映っていくのだ。彼女が取った唯一の反発彼が送ったストーンと同じストーンを送るという行為も、何もしらない恋人には何の手がかりを与える結果にもならない。

見つめる対象が逆転し、恋人と別れたことをマッシモは告げる。しかし彼女は嬉しさで涙するが、そこから逃げ出してしまう。ただ見つめるだけでよかったのだ。恋人ともヴァレリアとも深い関係を結ぶ事を許されなかった。彼は関係に前向きになり、二人に迫るのだが、無残にもすり抜けていってしまう。

ただ見つめるだけでよかったのだ。恋に臆病であり、誰かと深くかかわるのが怖い。見つめて、見つめられてそれにより彼女が少し成長する物語ではない。彼女はまたそこから逃げ、またきっと誰かを見つけて、そこに心の癒しを見つけるのだろう。まだまだ自分探しの旅は続いていく。

静かなトーンで抑えられた色使い、盗み見してるようなカメラワークがミステリアスなトーンを作りつつも湿っぽくなく、どこかカラッとした雰囲気で引っ張ってくれる。それはヴァレリア演じるバルボラ・ボブローヴァーの斜めから捉える黒髪に映える済んだ瞳と、ミステリアスな雰囲気が終始官能的に艶っぽい空気づくりに一役を買ってくれてるからだろう。
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