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マン・オブ・スティールのEikeのレビュー・感想・評価

マン・オブ・スティール(2013年製作の映画)
3.2
2013年公開作でアメリカンコミック、本家本元3度目の本格映画化です。
リチャード・ドナー版(1978)、ブライアン・シンガーによる「スーパーマン・リターンズ」(2006)
そして本作。
本作はダークナイト3部作を大成功させたクリストファー・ノーランが製作に加わった点が目玉だったと言えるでしょうか。
バットマンがダークナイトとして息を吹き返したように、今作ではスーパーマンという言葉を封印し、これまでのシリーズとの差別化を明確にしております。

今回の映画化に関してはスタンダードとなっている78年のドナー版との差別化が絶対条件であり、かつ(失敗した)リターンズの世界観を払しょくする必要もありました。
ヒーローを人間的にとらえなおし、物語をシリアスなドラマとして再構築する…そのアプローチはバットマン=ダークナイトと同様といえます。

しかし都市のカオスが生み出す闇のヒーロー、バットマンという元からアダルト色の強いヒーローと宇宙から地球にやって来たスーパーマンはヒーローとしてかなり異なる存在。
ダークナイトと同様のアプローチで描くのが果たして相応しいのかどうか。
ヒーロー誕生を描くエピソードである点に関しては78年版と同様ですがクリプトン滅亡を描いた後、クラーク・ケントの幼少期はフラッシュバックで処理する等、テンポの面では配慮が見られます。
この内容だと序盤では登場させられない筈のヒロイン、ロイス・レーンの物語への組込み方にも工夫が見られます。
この脚本に関してはさすがにダークナイト3部作をモノにしてきたダビッド・ゴイヤーは巧いですね。
役者陣もベテラン陣のサポートは流石ですし主演のヘンリー・カヴィルも健闘していると思います。

しかし本作を見終わってまず感じたのは「…華が無い…」という事。
スーパーマン、クラーク・ケントの描写に関しては徹底して人間的なアプローチを取る一方で、アクション・スペクタクルに関してはその逆を行ってます。
メトロポリスを舞台にしたゾッド将軍との対決シーンをデジタル映像で描く部分こそ78年・06年版に足りなかった要素な訳ですから力が入ってます。
当然、見応えはありますがドラマ部分があくまで「リアル」な人間ドラマとして描かれている点を考えるとこれほど過剰なスペクタクル描写は逆効果とも思えました。

監督にザック・スナイダーが抜擢されたのは「300」や「ウォッチメン」で見せたデジタル効果と実写の融合の手腕を認められた上でのことでしょう。
しかしそれ以外のドラマ部分に関しては正直言えばかなり凡庸な印象です。
ベン・アフレックはデジタル部分とドラマ部分の統合に自信が持てなかったということで本作の演出依頼を断ったという事ですが、現在のアメリカ映画の大作は全てこのフォーマットで製作されていると言っても過言ではないでしょう。

その上で本作が物足りなく思えた最大の要因はスーパーマンの物語は一種の「ファンタジー」であるはずなのに、その要素が極力排除されている事。
今作において一度としてクラーク・ケントからスーパーマンへの「変身シーン」が詳細に描かれていない点はその最たるものだと思います。
悩める「人間」としてのスーパーマンもいいですが、やはりもっとカッコ良いヒーローとしての描写が欲しかったというのが本音です。
とはいえ荒唐無稽な描写を排除してシリアスドラマとして構築することを「成熟」とするのなら、本作は以前のシリーズよりはるかに成熟したアメコミ映画と言えると思います。

ワーナースタジオとしてはスーパーマンを寝かせておくことが出来ないようで仕切り直して新たな作品を制作する計画が既に始動しているようですね。
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