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渇きのtigerpantsのレビュー・感想・評価

渇き(2009年製作の映画)
3.8
ロードショー公開時に一度観ていたものの、初見時の印象としては「変わった吸血鬼ものだな」と「存外にエロいな」というのと、その一方で「ちと長いな」と「とりとめもないな」といったもの。

その後、『お嬢さん』や『別れる決心』といった話題作や出世作の鑑賞を経て、もう一度配信で観直しところ……これらの後続作にて完成度を上げた「フックやトリック」の萌芽ともいえる部分が、本作のあちこちに認められたことは、新たな発見だった。

とはいえ(初見時にも感じた)「とりとめのなさ」は、再見時でもさほど変わらず。どうも本作の制作過程において、パク・チャヌクの中では、(エミール・ゾラの小説『テレーズ・ラカン』に着想をえた)「不倫関係になったカップルが夫を始末する」プロットと「吸血鬼になった牧師が血を求めて葛藤する」プロットと、当初は別々の企画をひとつにまとめたことで収まりをつけた部分と、2つの異種プロットの合体が生んだ「余剰」めいた部分……その後者が観る側に「とりとめのなさ」を抱かせるのではなかろうか?(個人の感想です)

奴隷のように扱き使われてきた(キム・オクビン演じる)テジュが(ソン・ガンホ演じる)吸血牧師に見染められ、どんどん美しくなってゆく経緯や、モンスターカップルに家が乗っ取られ、室内の調度も(コテコテの古屋敷から)白一色の無機質な空間へ……などの細かい演出や脚色は、何度観ても素晴らしい(が、途中で唐突に挿入される……まるで「初めて幻覚剤を服用した後に思いついた」かのような、コテコテのサイケ・トリップ・ショットは、いささか鼻白んだ)。

「信仰心」や「倫理観」と「性欲」や「食欲(「腹いっぱい生き血を飲みたい」という衝動も、これ?)の拮抗……そして、テジュの覚醒前後で物語の手綱捌きが大きく変わっていくあたり……もう少し、この辺のパズルがうまく嵌ってくれれば、作品の精度も上がったことだろう。だが、精度や完成度を二の次にしても撮りたかったものが、2009年当時のパク・チャヌクにはあった。

本編中で二度ほど登場する「テジュがヒョン・サンヒョン(牧師)の革靴を履く」シーン……あれらには心を揺さぶられた。それだけに、二人が(スーパーマンやスパイダーマンよろしく)空中を縦横無尽に飛び回るアクション・シーンには、最後まで慣れなかった!🕷
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