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ぼくたちのムッシュ・ラザールのodyssのレビュー・感想・評価

3.0
【微妙な出来かな】

期待して見たのですが、うーん、出来ばえは微妙かなあ。

宣伝からすると、意外性のある中年男性教師と生徒たちとの物語かと思ったのですが、つまり、日本ならありがちな「不良っぽい教師が赴任してきて教室の雰囲気を変えることに成功」的なお話なのかと思ったのですが、そこんとこ、ちょっと違うんですよね。でもそれは映画自体の責任ではなく、日本での宣伝の仕方の問題ですけど。

しかし、元の担任だった女教師の死で「心の傷」を負っている11歳の子供たちに対して、中年男が新しい担任として対処するという筋書きであることは間違いない。問題は、そこで、中年男のアナクロ的な教育が逆に今風の生徒たちの指導に効果的だ、というふうに展開がなっていないところだと思うんです。

では、「心の傷」を負った生徒たちと中年男の教師がなぜ一応うまく行くようになるのか。そこの描写が不足しているために、進行が説得性を欠いているのです。

現代の先進国の子供たちは一方で「子供の権利」に守られて生意気になっているけれど、他方でアクシデントによる「心の傷」には敏感になっている。その辺の矛盾というか、先進国ならではの教育上の難問は、たしかに作中の教師たちには意識されています。実際、そういう会話も出てきますしね。だから、本作は殺菌のきいた教育映画にまで堕落してはいません。

しかし主人公の中年男が抱えるトラウマを初めとして、大人も子供もそれぞれに大変なのだという現代の状況をしっかり捉えた社会ドラマ(社会派ドラマ、じゃなくて)になりおおせているのかというと、そこまでは行っていないのです。

結局、教育ドラマとしても、社会ドラマとしても中途半端に終わってしまった、ということなのではないでしょうか。

なお、舞台のモントリオールはカナダの中のフランス語圏ですが、それだけに、主人公の中年男のフランス語へのこだわりが、フランス本国にも見られる或る種のフランス語を媒介とした愛国主義を想起させて、ちょっと首を横に振りたくなりました。
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