自家製の餅

シェフ!~三ツ星レストランの舞台裏へようこそ~の自家製の餅のレビュー・感想・評価

4.3
最高のフレンチ・コメディ。
三つ星レストランを舞台に、舌の精度は尋常じゃないが、それゆえにこだわりが強く普通のレストランでは役立たずの扱いを受けてすぐクビになる主人公ジャッキー・ボノと、ジャン・レノ演じる自らの名を冠した三ツ星レストラン「ルガルド」のシェフ、アレクサンドルの二人のお話。
ボノは恋人が妊娠中にもかかわらず仕事が決まらずに、恋人が見つけた窓のペンキ塗りの仕事をしながらも、窓の先の老人ホームの厨房に口を(体も)出したりする。なお、妊娠中だけれども「恋人」であって、結婚していないのがフランスらしい。
他方、アレクサンドルは著名な三つ星シェフでありながらも、その伝統的な姿勢が新オーナーと折り合いが悪く、星が下がるとシェフを変えると宣告されて存続の危機にある。
そんなふたりが偶然出会って、星の存続と、伝統と新規性を兼ね備えた一皿を目指すことになるというストーリー。

アレクサンドルのレシピを隅々まで記憶していて、食材の「声」が聞こえるゆえに扱い方も完璧なボノを、「天才」や今で言うギフテッド扱いなど一切せずに、「なんか能力はあるけどダメないいヤツ」として描くあたりがこの映画の愛らしさであろう。
アレクサンドルもカタブツではあるが、どこか憎めないキャラで、これがフランスなのかと思う。変化を好まない主張のはっきりした老人ホームの入居者たちや、前職は料理と無関係の厨房の3人も存在が立っていて良い。

おそらくアレクサンドルもかつては新規性のあるレシピで世を驚かせていたのだろう。それゆえレシピはボノら一般人にも知られ、TVでも実演し、15年も星を維持している。しかし年月が経つほど自らもいつしか「過去」の側に流れてしまった。そんなアレクサンドルと信奉するボノは、彼のレシピを熟知しながらアレンジを加える良い「破壊者」であると言える。
「私の方が彼を知っている」(=ボノの方が、目の前にいる現在のアレクサンドルより、かつてアレクサンドルの著したレシピを知っているの意)という台詞が象徴的だ。

良いプロットに安心して観られる流れ、嫌味のなさ。クスッと笑えてしかもハッピー。軽いけど大切なものが詰まっているような最高の映画だった。
日本人のフリをして潜入するシーンは最高にイカしていた。絶対フランスの映画館は爆笑だったであろう。